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「まあ買うっても、元々国から援助を出してて、いつでも剣を打てるようにって城の離れに家構えてるやつに打ってもらうんだけどな。腕の心配はしなくていい。中身はおかしいけど、気にしないでやってくれ。で、そこに今から行くわけだが…………」
そこで一度言葉を止め、ちろりと横を見る。
えらく不機嫌そうだった。
原因はわかっているのだが、それはもう八つ当たりの域にあって、決して自分の所為ではないと思う。
「…アーシャ」
「なんですか?」
じとーっ、という擬態語が引っ付いてきそうなほどの半眼を見るに、どうやら彼女は未だご立腹のようだ。それに、はあ…とため息を吐いて、
「そんなに―――」
そこでふと言葉を止めた。前から城のメイドたちが歩いてくる。あちらは早々にこちらの存在に気付いていたようで、その場でぴたりと止まると、深々と頭を下げた。それに軽い会釈で返すエインレールとは対照的に、アーシャがあわあわと狼狽えている。無理もないとは思うが、たぶんこれから、少なくとも暫くの間はこんな調子で頭を下げられることになるのだから、少しは慣れて欲しい。
しかし、人の前でそんな風に話すことも出来ずに、エインレールはともすれば立ち止まって自分も頭を下げてしまいそうな雰囲気のアーシャの腕を引っ張って(周囲にそうとは見られないように気を付けながらなので、これがなかなか難しい)、その横を通り過ぎた。何歩か進んだところで、頭を下げていたメイドたちがまた歩き始めたのを確認すると、途切れさせた言葉を続けた。
「そんなに剣を買うのが嫌なのか? 繰り返すようで悪いけど、本当に気にしなくて良いからな」
「それは…とりあえず、納得しましたけど」
けど? エインレールは首を傾げた。不機嫌な理由は、てっきりそれだと思っていた。
「あ、あの時なんでもっと早く助けてくれなかったんですかっ」
「は?―――ああ」
納得。つまり、物思いにふけ込んで、彼女をマーフィンから救出(と言うと何かおかしいが)するのが遅れたことを言っているらしい。可哀相に、かなり怯えていたので、少し申し訳ないなとは思ったが………まさかそれを根に持たれているとは。
その場には他にクレイスラティとグリスがいたはずなのに、何故自分だけがそんなに恨まれなくてはならないのかという少しの不満が生まれたのだが、考えてみるとクレイスラティはアレだし、グリスとはあまり接点が無いということで、頼れるのが自分しかいなかったのだろう。
「おかげでなにやら恐ろしい思いを……!」
それで何かを思い出したのか、さあっと顔を青ざめさせるアーシャの姿に、大丈夫かなあ、と思わないでもない。彼なんて、特にこれから接点が増えるのだ。なにしろ、ユリティアの護衛を務めるのも彼なのだし。
「ま、いつか慣れるだろ」
「慣れませんよ! 他人事だと思って…」
どうやら壊滅的に相性が悪いらしい。マーフィンにしてみれば、これほど楽な相手は居ない、と言ったところなのだろうが。エインレールは苦笑すると、「悪い悪い」と口にして、慰めるようにぽんと頭を撫でた。何が不満なのか、すぐに振り払われたが。そういえば、クリスティーも頭を撫でると怒っていた。子供扱いするなとかなんとか言って。それと同じような感じだろうか。確かに、彼女と歳も近そうだ。いや、さすがに彼女よりは上だろうか…? どうだろう。
「な、なんですか…?」
居心地が悪そうなその言葉に、我に返った。無意識にじっと見てしまっていたらしい。
「いや………お前、何歳なんだ?」
「へ? えーと、17ですけど」
「はっ?!」
考えていたよりもずっと上だった。てっきり15かそこらだと思っていたので、目を見開く。これで自分より一つ下なだけだという。全然見えない。王に喧嘩を吹っかけたのだって、子供特有の無鉄砲さからだと思っていた。いや、性格もやはり関係しているのだろうが…。17はまだ子供だが、それにしたって、クレイスラティに対する姿勢くらいは覚えている頃だろう。あと、こっちの顔と名前くらいは。少なくとも耳に入っていておかしくないのに。そんなことを考えながら、まじまじと見ていると、
「あの、なにかとても不愉快なこと考えませんでした…?」
「………そんなことはない」
「嘘くさいです。その間が特に。そもそも、そういうエイン…様は、どうなんです?」
「様は要らない。ってこれ前も言わなかったか?―――で、何が“どう”なんだ?」
「言いましたけど、あれはこの城の外でのことですし。―――だから、歳です。歳!」
二つの内容について同時に喋るのは結構、…というか、かなり難しい。混乱しそうだ。なんとか頭の中でそれらを纏めて、
「外でも中でも付けなくて良い。前にも言ったが、今更、だ。それから歳は18」
「そうでしたね。……って、じゅ、じゅーはち?」
ぽかんっ、と今度はアーシャが目を見開いた。
「………なんだよ」
むっとしながら言えば、
「もっと上だと思ってました。…王族だし」
どうやらあっちもあっちで似たようなことを考えていたらしい。
「王族、は関係あるのか?」
「え、だってほら、なんとなく王族の方ってもっと上のイメージが…」
「王族にだって子供時代はあるぞ」
「そうなんですけどー…」
むー…、と唸る彼女に、出会いから今までの会話で考えるに、彼女は王族に対してなにか妙なイメージを持っているようだ。あっている部分もあるが、全く意味不明な部分もある。こんなやり取りがあと何回も繰り返されることになるのだろうかと思い、肩を落とした。