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生きたいと想って。生きたいと願って。だから生きているのだと思えるこの場所で――
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 [ はなみおはなし(4) -騎士たちの場合- ]


 盛り上がっているな、と少し離れたその場所を見ながら思う。全くもって元気なものだ。先程まで訓練でぜえぜえ言っていたくせに、宴となるとそんな疲れも一気に吹っ飛ぶらしい。
 しかし王も困ったものである。急に花見などといわれては、こちらの予定も狂ってしまう。
 グリス・セスチャインは、はあ、と知らず知らずため息を吐く。
「宴会の席でため息ですか?」
 そう言って近寄ってくる姿を認め、肩を竦めてみせた。
「どうも気が張ってしまってな」
「酒でも飲めば抜けるのでは?」
「一応職務中だ」
 真面目ですね、と笑う相手に、それをいうならお前もだろうが、と返しておく。目の前の男からは、どうも酒のにおいは感じられない。
「そうかもしれません」
 グリスの言葉に笑いながらそう返したマーフィン・カルロは、彼の横に適度な距離をあけて立つ。
「こういう時に気が抜けないというのは、ある意味損な性格をしていますね。貴方も私も」
「そうだな」
 腰に帯びた剣がいつでも抜ける状態であることに、安堵すら感じてしまうのだから。
 しかし、と再び視線を巡らせた。
「こうも人が多いと、誰がどこにいるかわからんな」
「ええ。まあ、こんな中だからといって無防備に自分を晒す者はいないかと思いますが」
 自分が護るべき相手の顔を思い浮かべていく。この宴の立案者であるクレイスラティは最初から除外した。あれは別格だ。自分たちよりも強い相手を、どう護れというのか。敵が彼の王を狙ってきたところで、返り討ちにされて終わりだろう。仮に彼が気を抜いたとしても、アーフェストが控えている。問題ない。では他はどうかというと、こちらも然程心配は要らないのではないかと思う。揃いも揃ってこの場で率先して騒ぐような性格をしていない。先の自分たちの言葉をそのまま当てはめるなら、全員が全員、損な性格をしているのだ。
「少しは楽しめば良いと言うのに」
「私たちが言えた義理ではないでしょう。それに楽しんでないというわけでもなさそうですよ」
 思わず漏れた言葉に、マーフィンが視線をどこかに固定して、言う。辿ろうとする前に外されてしまったのでわからなかったが、その言葉によって自然に脳裏に浮かんだ光景に、なるほど確かに楽しんでいないわけではなさそうだと思う。
 とするなら、最も損をしているのは、自分たちか。
 まあ、自分は家に帰れば妻子がいるので、損というほど損ではない。むしろ酒のにおいを付けて家に帰った時の方が大変だ。本気で嫌がられる。特に子供に。
 だとするならば、一番損をしているのは、自分ではなくて―――と隣に立つ、十近く年が離れている同僚を見る。
「お前もいい加減身を固めろよ」
「何を急に。もしかして、においだけで酔ったんですか?」
「そういうわけじゃない。なんとなくだ。なんとなく」
「なんとなく、ですか…」
 呆れた視線を送られたグリスは、それを気にするでもなくくつくつと笑う。
「見た目“は”良いのにな」
「どういう意味です、それは」
「中身が黒すぎる」
「…そういうことを普通、本人に言いますか? 否定はしませんけど」
 最後の言葉に、どっと笑い声が被さった。彼としてはこの話はあまり発展させたくないもの(あるいはあまり興味のないもの)なのか、逃げるようにそちらへ顔を向けた。自分の部下たちが、盛大に暴れ回っている。ああ…、と思わずグリスは顔を片手で覆った。
「あの調子だと、明日は二日酔いが続出しそうですね」
「そのようだな。それに関係なく訓練はいつもどおり行うつもりでいるが」
「鬼ですか」
「自己管理ができてない方が悪い」
 おそらく明日の訓練は阿鼻叫喚の地獄絵図となるだろう。グリスのところだけではなく、もちろんマーフィンのところも。
 表面だけ捉えればそうとは見えないが、根底での考え方が似ているのだろう。だから気が合うのかもしれない。
 それでも、いや、それだからか。
「やっぱりお前は、誰かいいやつを見つけろ」
「どうしてその話に戻るんですか…」
 うざったそうに自分を見るその瞳を見て、思うのだ。
 それから少し前にも、自分が護るべき者に、同じようなことを話したのを思い出した。あれはでも、少し違ったか。まあ、言ったこちらの気持ちの根底は同じだ。
(ああ、俺の周りには不器用な連中が多すぎる)
 それによって自身が損をすることすらも厭わぬ、そんな者たちが。
 自分も昔はこんな感じだったのだろうか。そういえば、昔似たようなことを言われた気がしないでもない。同僚を通して昔の自分を見た気がして、グリスは苦笑した。隣の男は珍しく明らかに眉を寄せ、訝しげな表情を見せている。
「そうだな……とりあえずお前は酒でも飲んどけ」
「なんでそうなるんです。…グリス、貴方やはり酔ってませんか? そこまで弱かったとは知りませんでしたよ」
 マーフィンの言葉には敢えて何も返さずに、くつくつと笑う。
 視線を落とせば、地面に花びらが落ちているのが見えた。
 ―――ああ、もう春なのか。
 何とは無しにそんなわかりきったことを、改めて思った。

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