sfy3 ---第五話

「～～～～～～っ！！」
　身悶えするミウラナに、セィランが苦笑している。
「お、おいし…美味しいです」
　こんなに美味しいものを食べられるなら、面倒なパーティーも悪くないかもしれない。パーティー嫌いのミウラナが、そう思ってしまうほどの絶品揃いだった。
「それはよかったです」
　対するセィランは、それほど食べているように見えない。
　彼自身が言うほど空腹ではないのか、あるいは―――
「セィラン様」
　呼び掛けに応えるために、あまりものを口にしている時間が無いからか。
　人気者だこと。ミウラナは多少の同情とともに、そう思う。ゆっくり舌鼓を打つ時間も無いだなんて。自分では到底耐えられない。
　しかしそういった時は大概、ミウラナも食べ物を口へ放り込むことを止めて、一応の挨拶を述べる。たとえ恋人関係でなかろうとも、彼のパートナーであることに変わりはないのだ。できることなら、ずっと食事をしていたいけれど。
　大抵は一言でミウラナの役目は終わるのだが、時々突っ込んで―――明らかにこちらを揶揄するような含みを持たせて、彼女を見てくる者もいる。正直言って不快である。
「こちらのお嬢さんとは、どういったご関係で」
　そう直接的に訊いてくる者もいた。
　セィランは、笑みを崩さずに「ご想像にお任せします」と逃げる。ますます相手の口角が上がるのは気に食わないが、この場においては、彼の対応は致し方がないもののように感ぜられた。
「いいんですか、誤解されますよ」
　訊けば、セィランは自然と笑う。
「別に。私は一向に構いません」
「…後々困りますよ」
　本命が現れた時とか。心の中でそう続ける。一度しっかりできあがってしまった認識は、そう容易く壊れるものではない。
　ミウラナの心配に、セィランは苦笑した。本気で心配しているというのに。
「貴女はいいんですか？」
　逆に訊ねられ、存外にたじろぐ。たじろいだ自分自身にも、動揺した。
「私も…別に特には」
　気になる相手も、いないのだから、少なくとも今困ることは何もない。それならそもそも誘いを受けたりしない。―――ああ、そう言ってしまえば、彼の側だって“それならそもそも誘ったりしない”となるのだろうが。
　それなら問題はないでしょう、と静かに笑う彼に、そんなものですか、と息を吐く。
「いっそ、私のわがままでここに来ている、と言ってくださっても構いませんのに」
　誘われた時にそういうことにして構わないと、彼に告げたはずである。
「そんなこと…貴女が泥を被るだけじゃないですか」
「ええ。私が泥を被るだけじゃないですか」
　顔を見合わせる。言葉は同じだというのに、込められた想いが正反対だ。
「泥なんて、嫌でしょう？」
「今さらです。なにせ、灰を被った身ですから」
「…私が嫌です」
　さらっと返せば、その方向でミウラナを丸め込むことを諦めた様子のセィランが、別の方向から攻めてくる。
「それに私は相手の想像に任せると言っただけですから。たとえそうでなくとも、責任は取りません」
　取れません、ではなく、取りません、と言い切る辺りが、妙に確信犯的なそれを彷彿させ、可笑しい。いつもはしないような屁理屈をごねているところが、なんだかひどく人間らしくて、可愛らしく感じた。―――同年齢の男性に対して言って喜ばれる言葉でないことはわかっていたので、口には出さなかったが。
「それなら、仕方がありませんね」
　真顔で、返す。
「貴方の機嫌を損ねては、本末転倒ですものね」
「はい。私の顔を立てると思って、お願いします」
　セィランは嬉しそうに笑った。
　パーティー自体は、これからもきっと好きだと言うことはできない気がする。
　けれど、こんな風に彼が笑うのなら、来てよかったかもしれないと、思った。

　やはり、友人の役に立つというのは、気分がいいものだ。

　少なくともミウラナは、この時の自分の高揚感を、友人に対してのものだと認識していた。
　それが正しいのか、はたまた認識違いであったのかは、後（のち）の彼女のみが知り得ることである。

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