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生きたいと想って。生きたいと願って。だから生きているのだと思えるこの場所で――
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「………ぶとーかい?」
 きょとん、と目を丸くさせた彼女に対し、そうよ、と彼女の姉は言った。
「先週言っていたでしょう。お城で開かれる舞踏会よ」
 忘れたのか、と呆れたような顔をした実の姉に、はて、と少し考え込んだ妹。
 しかし次の瞬間には、にっこりと、父親譲りの人好きする笑みを顔に浮かべ、
「いってらっしゃーい」
 手を振った。ばいばーい、と。
 その瞬間、後ろにいた母親に引っ叩かれたけど。
「あ・な・た・もっ、行くの! 用意は!?」
「忘れてたんだから、してるはずないじゃない!」
「胸を張って言うなー!」
 そんなこんなで、舞踏会に行く前からなにやらてんやわんやと大変な様子。
 それが、シンデレラ(灰かぶり)の家族。

 【ルーフェイ】国の貴族であるスティ家のお屋敷は、結構な造りで、広さもかなりのものなのだが、召使いは三人しかいない。しかもそれは平民の出なので、世話をさせる前に世話を焼かなくてはならない。
 では、誰がそれら召使いの教育を含め、家事一般を一任されているかと、それは何故か、この屋敷の主であるダッカル・スティの二女、ミウラナ・スティなのである。埃を被ることを厭わずに、周りから変な目で見られることなど気にも留めずに、そんなこんなでついたあだ名はシンデレラ(灰かぶり)。
 長女であるポティシ・スティは、それを思うたびにこの家は自分が確りしなくては駄目だと思う。一家の大黒柱である父は、けれどこの件に関しては役に立たない。というか、彼女の遺伝子の大元はたぶんこの人。この人の遺伝子が少しでも自分に受け継がれていたら、自分も母のようにこんなに悩まなくて済んだのか―――だって現にその悩みの種である当の二人は、さして困っている様ではないのである―――と思うと、惜しい気もしてくるが、そうなるとたぶん、今頃母が疲労やら何やらでぽっくり逝ってしまっているだろうから、母の疲労が自分がいることによって半減されるこの状況はまだ良かったのかもしれない。
 思えば小さい頃からそうだった。あの妹は、いつだって。押入れに入ってみたり、川に飛び込んでみたり…。街中を歩いていて気付いたら居ない、なんてしょっちゅうだった。
 掃除が好きなのも結構。料理が好きなのも結構。だが、髪に埃をつけて屋敷内を歩き回るのは―――いや、屋敷内ならまだいい。とりあえず、その格好で外に出ようとするのは止めて欲しい。三人の召使いがその手助けをしようとしているのも絶対おかしい。
 と、ポティシは軽くため息を吐くと、彼女の髪についている埃を取ってあげた。きょとんっとまた目を丸くさせる彼女の姿は、とてもじゃないが今年成人したとは思えないほどに幼く見えた。
(あーもー、ほんとに世話の焼ける…)
 それでもついつい世話をしてしまうのが、もしかしたら、彼女がここまで奔放に育った原因の一つなのかもしれないが。
 ぱっぱとドレスを選び、嫌がる妹を召使い(こういう時は味方なのである)と共に着替えさせる。埃があるなら払い落として、化粧を薄めに施す。最後にバレッタを使って、髪を結う。淡い青の薔薇の装飾がなされているソレは、簡素過ぎもせず、豪華過ぎもしない。妹の性格を考えての、無難な判断だ。
 出来上がりは、結構なものだった。ほうっ、と召使いたちが感嘆の声を上げる。普段からこうしていれば、本当に“完璧”なお嬢様なのに…、と思わないでもないが、しかしそれを実行に移そうと彼女を捕まえようとすれば、彼女は雲隠れしてしまう。どうしてかこういう時は見つからないのだ。何度かそんな目に遭って、その何度目かに諦めた。
 さてそれじゃあ、と用意してあった馬車に母と二人で連れていこうとしたところ、また暴れる暴れる。しょうがないので奥の手を使った。
「部屋に閉じ込めるわよ? そしたら料理は無理よ?」
「掃除道具、全部没収するわよ?」
 上は母。下は姉。
 なんとも変わった脅し文句である。しかし効果は覿面だったようで、うえっと年頃の娘とは思えない変な声を発し、しょぼくれながら、渋々と馬車に乗り込んだ。
「………舞踏会……」
 なんとも憂鬱そうである。このパーティーに行けると聞けば、大抵の娘は喜ぶのに、だ。喜ぶ理由は、もちろんそこに『憧れの王子様』を捜すからである。それは夢があって良いと思う。ただ、それに便乗するかのように、自分よりも上の連中に、上手いこと取り入ろうとする(つまるところ、娘を売ろうというのである)そんな最低(少なくとも、ポティシから見ればとても最低)な貴族もいるが。
 はうううう…、と沈み込んでいる彼女に、母娘は顔を見合わせ、
「ほら、しゃんとしなさい。美味しいものたくさんあるわよ?」
「そうよ。食べてたら時間なんてすぐに過ぎるわよ」
 あんまりといえばあんまりな慰めようである。
 しかし、これが一番効くのだ。だからしょうがない。しょうがないのである。
 うー、と未だ唸りながらも、その言葉に少しだけ元気を取り戻した様子のミウラナに、ほっとする二人。

 かくして、シンデレラはお城の舞踏会に出席することになったのである。

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岩月クロ
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