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生きたいと想って。生きたいと願って。だから生きているのだと思えるこの場所で――
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 朝日が、薄いカーテンをすり抜けて、淡く部屋を照らしている。それは普段なら不快と感じない程のものだったのだが、こうも眠い時には、どうもそうとしか感じられないようだ。
「うぅ~~~………」
 唸りながら、アーシャは身体を起こす。
 こんなベッドで眠れるかっ! といつだったか思ったはずのソレは、案外布団に潜ってしまえば、質が良いお陰か、ぐっすり眠れた。あるいは、相当疲れていたのか。それもある、とした方が正しいだろう。
 起きてから自分がいる場所を確認し、よくもまあ眠れたものだなあ…こんなピンクのフリフリの中で、と改めて考えてしまう自分に、おそらく罪は無い。…はずだ。
 ごし、と目を擦る。眠い。猛烈に。眠い。
(昨日はかなり大変だったからなぁ……)
 ウェスタンに言われた「自分だけの武器」という言葉はとても魅力的で、だからか、ちょっと張り切り過ぎてしまった。頑張ったところで、一日でどうこう出来るものではないことぐらい、わかっているというのに。
(ああ、けど…)
 良かった。どうやら魔法は使えるみたいだ。他の魔法を見たことがない―――この場合、国王が使ったあの妙な魔法は除く―――ので、その威力が普通よりも低いのか高いのか、それともちょうど平均ほどなのかは不明だが、初めてにしては上々の出来だったと自負している。だって、自分に魔法を教えていたマティアも、かなり驚いた顔をしていたし。
 なら、きっと合格点、だろう。
 とはいったものの、それは全て、自分の考えの中でのことであって、実際がどうかは知らない。それでも嬉しいという気持ちは残って、アーシャは無意識に口元を緩めた。
 しかし、
 ―――あたしは、この光を知ってる。
 あの時、自分の意識の中、ぽつりと浮かんだその“真実”。
 やわらかな光に包まれ、自分は確かに、妙な安堵がもたらされる最中(さなか)にいたのだ。
 緩んだ口元ばかりか、顔全体――身体全体が、ぴしりと凍った。あの感覚は、なんだったのだろうか。いや、知っている。あの感覚が、なんであるかを、自分は知っている。でも何故? どうして? 知らないはずのものを知っている、自分という存在が恐ろしい。今思えば、あの剣を――今はこの国の王にあるはずの家宝である剣を、自分はどうやって扱っていたのだろう。
 便利なもの、としか考えていなかったのだ。
 でも違う。エインレールも、クレイスラティも言っていたではないか。魔力を注いで形を変えるているのか、と。魔力を注ぐ、とはつまり、自分が昨日、マティアの用意した魔方陣に対して行ったソレと同じだろう。
 仮に、魔方陣に魔力を注ぎ込む方法を知っていたのがソレによってその行為に慣れていたためだ、とするとしよう。ではどこで、あの家宝に魔力を注ぎ込む方法を教わったのか。どうしてこれまで、そのことについて一切の疑問を持たなかったのか。
 持ち得なかった、のだ。自分にとってそれは、当然で、当たり前のことだった。できることが普通で、それ以上でもそれ以下でもなかった。
 何故?
 その絶対的信頼の根拠は、いったいどこにある?
 ―――考えるな。
 ツキン、とあの時と同じ痛みが、頭を襲う。
 ―――今はまだ、知るべき時ではない。
 “今はまだ”? 浮かぶ自分の言葉に、疑問を投げかける。ではいつなら? いつなら良い? 自分が待っているその“時”とは、何だ?
 答えろ、と叫ぶ。同時に、考えるな、という言葉がそれに覆いかぶさり、互いが互いを打ち砕く。けれど消えはしない。欠片が残る。消えない欠片が積み重なり、アーシャは、決して寝起きということだけで引き起こされるわけではないそのぼんやりとした意識の中で、いつか自分はこれらに押し潰されるのだろうかと、なんとはなしに考えた。
 それとも、その前に答えを手に入れるのか。
 ―――考えるな。
 その後に、押し潰されるぞ、と言葉が続いた。
 そうか。納得する。これもまた、自己防衛の一つであった。今知れば、きっと潰れる。だから、今はまだ、知らないままで。知った時に、相応の覚悟を持ってして、立ち向かえるように。
 今は、準備期間にあるのだ。
 まだ、力を手に入れていない。それを扱えるだけの技量がない。
 落ち着け、と心の中で念じる。落ち着け。今やるべきことは、何だ。考えるべきことを、考えろ。その答えは少なくとも、ここで思念に潰され気力を失くすことではないだろう。
 では何だ。
 …決まっている。
「よ…っし!」
 頭に渇を入れる意味合いも込めて、声を発し、ベッドから飛び降りた。この際だ、行儀なんて気にしない。
「今日も頑張りますか」
 魔法は、なるべく早くに習得したい。早ければ早いほど良い。なるべく早く、実戦形式での試合にこぎつけるまでに、成長しなければ。
 実戦では、基本だけに囚われていては動けなくなる。自分と同じように魔法と剣術を組み合わせた戦いをしている者(あるいは、しようとしている者)は、どうやらここにはいないらしいから、アドバイスも何も貰えないのだ。とすれば、とにかく自力でなんとかしなくてはならないだろう。
 その際に使う魔力に抵抗力のある剣がまだできあがっていないので、アーシャの望む練習がいつから出来るようになるかは不明だが、それまでの間に魔法を正確かつ速く発動できるようにしておかなければ意味が無い。そうして自分にある程度の自信が持てなければ、例え剣が完成したとしても、ウェスタンはアーシャに剣を渡さないだろうし、アーシャもまた剣を受け取りはしないだろう。
 だから、頑張る。
 それがいずれ来たる時に、必要なものとなるだろう。そんな妙に確信に満ちた考えが、アーシャ自身さえも気付かないほどの心の片隅に存在していた。
 ………と。
 こんこん、という控えめ気味な声。誰ですか、と尋ねると、返ってきたのはどうやら召使いの声のようだ。お召し物をとかなんとかなんとか。入室の許可を頂けますか、と懇切丁寧に訊かれたので、思わず、はあ、と間の抜けた返事のようなものをした。してしまった。その後に、はたと思い出す。昨日の恐怖を。
 あれはひどかった。やばかった。あの髪とか、結局どうやって解いたらいいのかわからなくて、元が綺麗だった分、魔法の練習をする時に悲惨な目に遭った。もうあんなのはご免だ。
 かなり逃げ出したい気分に駆られたのだが、返事をしてしまった手前居留守を使うことは出来ない――しかしまあ、返事をしてしまう云々以前に、自分がここにいなければいないで、それが大問題に発展するだろうことは目に見えている――し、帰れという理由も無い。そんなことを偉そうに言える立場に自分がいるとも思えない。
 仕方がなしに、扉を開けると、案の定というか、そこに昨日自分を拉致していった者たちと同じ服を着た者――同一人物であるかは不明。だって昨日は数がわからないほどたくさんいたし――が立っていて、頭を抱えたくなった。
 勘弁してよ、と思う。そこに何かしらの必要性を見い出せないから、当たり前。
 昨日と同じようににこにこと、どことなく嬉しそうに笑いながら近寄ってくる彼女らに、ある種の恐怖を覚えた。私的には、あの暗殺者よりも強敵だ。
「え…えと、ですね…か、髪は結うなら動いても崩れないようにしてください。あとそれから、自分でも解けるようなのにっ! お願いですからあんまり複雑にしないでくださいーっ!!」
 と、言いたいことをひたすら言い続けた結果、出来上がったものは昨日よりは複雑ではないとはいえ、やっぱりちょっと自分一人では解けそうもなかった。もしかしたら、彼女たちにしてみれば、これは「一人で解ける簡単なもの」なのかもしれない。だとしたらどうしよう。
 これから少なくともこの件が解決するまではこんな生活が続くのかと思うと、少しばかり泣きたくなった。

 おかげさまで、先程までのどこか鬱々とした気分は綺麗さっぱりぶっ飛んだけれど。
 代わりに別の憂鬱が襲ってきたのは、言うまでもない。

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