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生きたいと想って。生きたいと願って。だから生きているのだと思えるこの場所で――
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 てくてくと、彼の隣を歩く。といっても行き先を知っているのは彼の方なので、若干アーシャの方が遅れて歩いている。
 相変わらずきらびやかな内装だったが、そこに段々と薄暗い気配が漂っている。ただし見た目には何も変わらない。ただ本当に、そんな気配がするというだけだ。しかしそれは、なにもアーシャがそういうことに敏感だからというわけではない。おそらく相当鈍い者でなければ、この違いに気付くだろう。
 理性が正しくそれを判断しているのではない。本能が、ここはどこか妙だと、伝えているのだ。
 無意識に足取りが重くなったが、それでも遅くならなかったのは、隣を歩くエインレールが何の気負いもなく歩くことに、安堵を覚えたからだろう。置いていかれては困る、という事情もあるが。
「どうした、いやにびくついてるな」
「む…。そんなことないです。大丈夫です」
 思わず言い返すと、エインレールが妙に真面目くさった顔で、そういえば言い忘れてたけど、と続けた。
「ここで幽霊を見たって人間がたくさんいるんだよなぁ」
「え…? で、でもっ、ここお城、ですよね? そ、それにそもそもそんなもの……最初からいないに決まってます!」
「どうだろうな。城だからってのもあるんじゃないか。処刑は大概城の中で行われるし。ほら、幽霊って現世に未練があるやつがなるもんだろ?」
 それに、とエインレールは立ち止まり、つられて止まったアーシャに向かってにこりと笑いかけた。
「俺も見たからな、幽霊。青白い顔したやつ」
「じょ、冗談ですよね…?」
 さあっと顔を青ざめさせたアーシャに追い討ちをかけるかの如く、冗談なわけないだろ、とエインレールは続けた後に、ちろりとアーシャの背後に、意味ありげに一瞥する。
「な、なんですか…?」
 それに気づいてしまった彼女は、けれど後ろを向く勇気は持てず、顔をいっそう青くさせながら、他に注意を向けないようになのか、一心にエインレールの顔を凝視している。ただ、意識まではそこに集中できないらしく、かなり警戒心が漏れ出していた。
 それが告げている。
 後ろに何かがいる。そんな気がする。
 慌てて否定した。
 いや気のせいだ。気のせいに決まっている。そうでなかったらなんだというのか。幽霊? いやまさかそんなこと。だってあんなの想像上の産物でしかない。そのはずだ。むしろそうであってほしい。
 何に対するものなのかは不明だが、段々と懇願じみてきた思考は、留まることを知らない。
 う~~~、と唸り始めたアーシャの肩に、ぽんと手が乗った。ひんやりとしている。前を見る。エインレールが立っている。自分に腕が伸ばされているわけでもない。
 じゃあ、この手は誰の?
 その疑問が頭にぽんと浮かんだ瞬間に、
「きゃああああああああああ!」
 アーシャは力の限り叫んだ。
 そのままその場にへたり込む。上から笑い声が聞こえてきた。二人分。………“二人分”?
 涙が浮かんだ顔を動かし、それらを視界に入れる。一人は肩を震わせくつくつと笑っているエインレール。もう一人は、見たこともない女性だ。扉に背を凭れて(…扉なんてあったのか。気付かなかった。それどころじゃなかったから)、金色の髪が一つに纏めてある。その毛先が女性が笑うたびに肩甲骨のあたりで揺れていた。………“金髪の女性”? “笑うたびに”?
 思考は滞りなく進む。進むだけで、理解が追いついていない。ただ何かおかしくないかという単語を拾っては、後で首を傾げる。そんなことを繰り返すうちに、ようやく理解が追いついた。
 つまり。
「え、エイン! からかいましたね?!」
 行き当たって見れば、これほど単純なことはなかった。何故今まで気付かなかったのだろうか。
 恨みがましく睨みつければ、しかしエインレールは未だに笑い続けている。というか、むしろ、笑いが大きくなっている。腹が立つ。
 いつものように口で謝りながら、大丈夫かと手を差し出された。手合わせで負けた時とはまた別の感情で、その手を取りたくないと思う。今度は無視するだけでは我慢できず、ばしっと思い切りその手を叩いてやった。それでもまだ笑う。…どうやら更に助長したようだ。
 アーシャは座り込んだ状態のまま、唸った。この怒り、どうしてくれようか。
「ていうか、この方は…?」
「え? ああ、この人は―――」
 と、そこまで言ってエインレールが止まった。なんだ、と思い見上げれば、かなり引き攣った彼の顔。視線を辿り、
「―――っ!?」
 息を呑んだ。人間、本当に怖いことがあった時には悲鳴すら上げられないと聞いたことがあるが、まさしくその通りであった。
 白――を通り過ぎ、もはや青白いといえる顔色をしたソレが、ふらりふらりとこちらに近付いてきている。頬はこけ、口は半開きだ。おまけに目はどんよりとしていて、どこか陰を背負っている。危なげな足取りで一歩、一歩と進むたびに、がくん、と首が曲がる。
 それがゆっくりと、しかし着実に、自分たちの方に近付いてきていた。

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