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生きたいと想って。生きたいと願って。だから生きているのだと思えるこの場所で――
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 ウェスタンはその後、こちらとの会話に飽きたのかなんなのか、「今から剣を打つ。できる頃を見計らって取りに来い」と言うなり今度こそ二人を容赦なく閉め出した。お得意の魔法まで使って、だ。まあでも、手加減はしていたのだろう。でなければ、あるいは五体満足でいられなかったかもしれないから。
 エインレールがそれに悪態を吐きながら、自分の落ちた剣を拾いに言っている間に、ウェスタンは一度、窓から顔だけを出した。
「魔法、使えると良いな」
「? はい、そうですね」
 わざわざそれを言うためだけに出てきたのだろうか。
 首を傾げながらも、そうであれば良いと思う気持ちは確かなので、素直に頷く。
「つーか、使えるようにしろ」
「…命令、ですか?」
「ああ、それがお前に剣を打つ条件だ。…と言ったらやる気出るか?」
「元々あります」
 それじゃあ、とウェスタンは笑った。あの意地悪そうな笑いだ。
「もっとやる気出ること教えてやる」
「…?」
「お前には、」
 すう、とその顔が真剣なものになった。それにまた気圧され、背筋をぴんと張ってしまう。
「相手を倒す力が無い」
「…………」
 それは解っていることのはずだった。だが、面と向かって改めて言われると、やはりショックを覚えずにはいられない。
 ウェスタンの言っていることは正しい。自分には相手を圧倒させる力が無い。ある程度の技術と速さはあっても、それは“ある程度”止まりでしかない。
 それでも相手が、同じような“ある程度強い”相手ならばまだ大丈夫だ。けれどエインレールのような、“本当に強い相手”と戦うには、力不足なのである。
「だからこそ、魔法をものにしろ。それを自分だけの武器に仕立て上げろ」
 強い相手すら倒せるほどの、決定打に。
 エインレールが剣を振り向き、顔を出しているウェスタンに驚いている。それを認め、にやりと笑うと、ウェスタンはアーシャの耳に顔を寄せ、囁いた。
「―――勝ちたいんだろう?」
 こくり、と頷く。迷いもなく。それは本心だったから。
 見透かされていたことに羞恥はない。勝ちたいと思う心は、決して悪いものではないから。良く言えば『向上心』と置き換えられる。
 そうでなくても、ウェスタンのその言葉には、嫌味は篭っていなかったから。
 だから、頷けたのだろう。本心を曝け出して。
 顔が離れる。目と目が合う。
「なら頑張れ。それがお前の強さと言えるようになるまで」
 その言葉に、またこくりと頷いた。確りと。やはり迷いはなく。相手の目を、じっと、逸らすことなく見つめた。
 それに対し、ウェスタンは満足気に笑ったような気がしたが、それは果たして、アーシャの気のせいだったのだろうか。
 確かめる術はもう無かった。ウェスタンはアーシャの後ろを一瞥した後に、窓を閉めてしまったから。

「アーシャ!」
「はい?」
 突然焦ったように呼ばれた自身の名に、アーシャは驚きながら、その名を呼んだ彼を振り返った。短い距離だというのに、それを普通に歩く時間すら惜しいらしい。走って近付いてくる。
「ど、どうかしました?」
 必死とさえいえるその様子に、思わずそんな言葉が口を突いた。
「いや…」
 エインレールは言葉を濁し、視線を彷徨わせながら、
「なんとも、なさそうだな。それなら良いんだ」
「一人で納得しないでくださいよ」
 一体なんだというのか。
 呆れ混じれにそう言えば、けれどそれ以上のことを言うつもりはないのか、妙に誤魔化すばかりだったので、アーシャも続きを聞くのは諦めた。
「―――良い人ですね、ウェスタンさん」
「そ…うか? 良い人…まあ、良いやつだけど、でも、なあ………」
 『良い人』も『良いやつ』も変わらない。何をそんなに気にするのか。
 ぶつぶつと言い始めたエインレールを放っておこうかと思ったが、彼(道案内)がいなければ、帰るにしてもどう帰れば良いのか、帰らないにしてもそれではどこに行くのか、さっぱりだ。仕方がないので、引き戻すことにした。
「エイン、次はどうするんですか?」
「ん?…あ、ああ。次……次は、マティアのとこに、お前を送り届ける。なんでもそのまま魔法の練習に入るそうだ」
 まあさっきの様子だと、本当にすぐにでも魔法の訓練を受けた方が良さそうだから、好都合だけど。
 『好都合』という言葉に、アーシャは何度もこくこくと頷いた。その理由通りの意味でと、それから、それとは別の意味で。つまりは、ウェスタンの言葉をすぐにでも実行するための機会が、思いがけず早くに来たことに関して。
 魔法の訓練を受けさせてもらえる、とはいっても、それは今日ではないと思っていた。疲れているなら明日でも良いみたいだけど、というエインレールのこちらへの気遣いが含まれた言葉をなるたけ丁寧に断る。
「頑張ります」
 ぐっと握り拳を固めたアーシャに、
「そうか。まあ、ほどほどにな」
 エインレールは、未だ心配げな表情を見せた。

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