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生きたいと想って。生きたいと願って。だから生きているのだと思えるこの場所で――
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 視界の端に映ったものに、あ、と思った。
 気付いたら、ただそれを見ていた。


[ 雪降る場所で ]


 キィン、キィィンッ、と剣が交わる度に音が鳴る。と、相手と自分がほぼ同時に引いた。火の玉の乱入があったからだ。
 エインレールはソレを後ろに飛び退くことで避けると、そのまま踏み込もうと足に力を入れた―――ところで、止まった。
 相手をしていたはずの少女の意識が、こちらではない、どこか別のところに飛んでいた。別に、何か魔法の術式を組んでいる様でもない。ただ本当に、ぼうっと空を見上げているだけだ。確りと握っていたはずの剣は、力なく地面についている。実戦形式の手合わせ中に何をやっているんだと言おうと思ったが、それを言うならそんな彼女を見て斬り込むのを止めた自分だって同じようなものだ。
 ―――これがもし、本当の実戦だったならば、エインレールはそこに何の感情も含ませず、相手を斬って捨てることが出来ただろうが、今のこれがどれだけ実戦形式といえども、練習は練習、だ。
 まあだからといって、集中力を途中で切らすのはどうかと思うが。
 苦笑しながら自分も戦闘体勢を解き、どうした、と訊ねる。すると少女――アーシャの顔が、空からエインレールへと向いた。
「ああ…えぇと、雪、が降っていて……」
「雪?」
 言われて、空を見上げれば、なるほどその通りだった。どうやら熱中し過ぎていた所為で、気付けなかったらしい。しかし、それがどうしたというのだろうか、と首を捻る。そんなエインレールを見て、アーシャは「首都では雪は珍しくないんですか?」と言った。
「そんなにはな。毎年何度かは降るし」
 へえ、とアーシャは驚いたように声を上げた。
「だからエインはあまり感動した様子じゃないんですね」
 それは単に、自分が雪に対して元々そう関心がないからというのが理由だろう。エインレールはそう思ったが、一々訂正するのも億劫で、「まあな」と返しておいた。
「ツベルでは降らないのか?」
「降るには降るんですが…。二年に一回くらいですよ」
 その言葉で、相当珍しいのだなと思い、同時に少しばかり嬉しそうな彼女の表情にも納得した。
 そんなに積もることもないですし…と未だに自分の故郷の雪事情を話している彼女に近付く。
「ましてこの時期に雪が降るなんて―――って、エイン。なんで剣を仕舞ってるんですか」
「自分が先に止めたんだろうが」
 呆れたように言ってやれば、身に覚えがあったのか(この状況で無いと言われても困る)、うぐ、と言葉を詰まらせる。
「珍しいんだろ? 雪」
 アーシャは必要以上に頑張りすぎるきらいがあるので、偶には休めば良い。そうでなければ、いつか倒れてしまいそうで怖い。良く言えば真面目で、悪く言えば―――やっぱり真面目、なのだ。少しは力を抜くことを憶えた方が良い。それが出来ないのなら、周りがなんとかして休ませるしかない。
「でもそれとこれとはまた別問題っていうか、やっぱり鍛錬は必要なことだと思いますし」
 とぶつぶつと反論しつつも、彼女は雪への興味を捨て切れないらしく、ちろちろとその視線が時折ふわりふわりと降っている雪へと向けられている。
 その行動に、思わずクッと笑ってしまえば、彼女の顔は一気に不機嫌そうなものに取って代わり、なんですか、とエインレールを睨み付ける。ただその頬が照れによってか赤くなっていたので、迫力は無かったが。
 あくまで休もうとはしない彼女に、それじゃあさ、と一つの案を提示する。
「ここは一旦引き上げる。で、雪が積もるのを待つ。それから外でもう一回鍛錬、でどうだ?」
「………積もるんですか、これ?」
 訝しげ、というよりは、何かを期待したような瞳で、アーシャがエインレールを見る。
「積もるだろうな。これだけ強いと」
 エインレールは空を見上げた。次々と降ってくる雪の勢いは、先程よりもずっと強い。この分だともっと強くなるかもしれない。続けるにせよ止めるにせよ、一先ず城の中に入った方が良いかもしれない。自分は大丈夫だが、これでアーシャに風邪を引かれでもしたら、周りからなんと言われるか。
「とりあえず、中に入ろう」
「えぇ?」
 アーシャは不満そうだ。なんでだと訊かないあたり、エインレールがそう言った理由は分かっているのだろう。彼女は愚かではない。ただ少しばかり鈍感ではあるから、おそらく、風邪を引くかもしれないから、という理由だとしか考えていないだろう。
「良いから行くぞ」
 不服そうな彼女の腕を引っ張って、城に入る。抵抗が無いのは、恐らく不満の声は上げたが、それがどう考えても良いことではないと理解しているからだろう。
「…………で、鍛錬って」
「ああ。――――雪合戦」
 は?
 と、固まったアーシャの顔には、多分にそんな言葉が書かれていたように思う。
「ゆ、ゆきがっ…せん?」
 本当に? 本気で言ってるの? と言外にそんなことを言われている。
 それに真面目な顔で頷けば、アーシャが頭を抱えた。
「あぁぁ…やっぱり蛙の子は蛙、陛下の子は陛下ということですね……っ」
「おい。ちょっと待て。俺をアレと一緒にしてくれるな」
 流石にその言葉は聞き捨てならず、即座に否定する。だって、あれと同格なんて、嫌過ぎる。ただでさえ血の繋がりがあることを悔やんでいるというのに。というか、「陛下の子は陛下」ってなんだ。別に自分は陛下になるつもりもなければ、なる予定もない。なるとしたらそれは、自分ではなくアルフェイクだろう。―――ああでも、アルフェイクだったら、先の言葉も、本当の意味で当てはまりそうだ。
「大体雪合戦って………鍛錬、ですか……?」
 ぐぐっと眉間に皺を寄せて見せたアーシャに、答える。
「鍛錬だ。対雪国戦の」
「たとえ雪の降る地で戦うことになったとしても、雪玉を投げることはしませんよ!」
 至極尤もな意見に、じゃあやめるか、と言うと、その瞳に迷いが生じた。なんだかんだ言っても、やはり興味はあるらしい。
 くつくつと笑いながら、その頭にぽんと頭を乗せ(いつもだったら振り払われる。子供扱いするなとかなんとかって)、
「じゃあ後で、な」
 そう言ってやれば、しばらくして、こくんと首肯で返された。

 ――――その後に。
 何故か人が集まりに集まり、遊びの域を超えた、もしかすると剣を交えての鍛錬よりもずっときついかもしれないような地獄の雪合戦(だって普通の雪合戦って絶対に、チュドーンとかバゴーンとか、そういう音はしないはずだ)が始まり、もうちょっと平和的なものを選ぶべきだったかもしれないと後悔したのは、また別の話。

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