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生きたいと想って。生きたいと願って。だから生きているのだと思えるこの場所で――
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 そこは、人の賑わいが絶えない、商業が活発な【ツォルヴェイン】の首都。
 観光名所であることもあってか、綺麗な造りをした建物も多い。もちろん、それは王様が住む城も例外ではなく。折角来てくれた観光客でも中に招き入れることは出来ないから、それならせめて外装で…という思いもあるらしい。
 初めて見た者はもちろん、見慣れた街の住人さえも、思わずほうっと感嘆のため息を吐くくらい綺麗な綺麗なお城に、
「は、はああぁぁぁぁぁぁああっ?!」
 悲鳴染みた声が響いた。


「ちょっ…ま、まてまてまて。なっ、どういうことだよオイ!」
 普段の丁寧な口調を取り繕うことさえ忘れて、第三王子であるエインレール・ヴェイン・シャインは、地の口調で父であるクレイスラティ・ヴェイン・カスター―――つまりは国王に詰め寄った。もう胸倉を掴みたいような心境だったが、それはグッと堪える。
 第一王子であるアルフェイク・ヴェイン・シャインはやれやれというようにその光景を見、その隣に居る第二王子――ルキアニシャ・ヴェイン・シャインもそれに似たり寄ったりな面持ち。ただ、心内はエインレールと同じソレだった。
 原因は――――そう、それこそ、こんな人が国王で良いのかと、思わず言いたくなるような、
「いやだってさぁ、魔法の取得もそれなりに頑張らなきゃなって思って………で、杖向けた先に偶々それがあったわけで…………ふ、不可抗力だって、不可抗力!」
 その呆れた言い訳。
 ひく、とこれには三人の王子は同様に、顔を引き攣らせた。と同時に、ここにいない王子と王女を、本当に呼ばなくて良かったと安堵した。だって、彼らがいると何かと厄介。父を庇うことはないだろうが、話を変な方向へ発展させるやつもいるから。もちろん、そういうやつばかりではないが……ないのだが、ないことが問題なやつもいて、つまるところ、キレるだろうなあ、と。
 まあ怒りたくもなるけど、とこれまた三人が同じ結論に行き着いたところで、
「そんなん言い訳になるかっ! それで国宝である【ツォンの剣】を失くしたって………はあ」
 エインレールががなった。そして直後に、意気消沈。怒ることさえ馬鹿らしくなってくるのは何故か。
「や、失くしたわけじゃないよ? ただ魔法の的になってどっかに飛んでっただけ」
「同じことだと思いますが…」
 アルフェイクが肩を竦めた。顔には苦笑が浮かんでいる。
「国宝だぞ、国宝! どうすんだよ! 国民に説明するのか? 魔法の練習しててどっかに飛ばしちゃいました、って?」
「いや、流石にそう馬鹿正直に伝えることは………出来ないだろう。内容が内容だけに」
 微かに眉を寄せるルキアニシャ。彼はこの三人の中で最も表情の変化に乏しい。が、意見が無いわけでも、まして感情が無いわけでもない。ただ見せないだけ。かくいうエインレールだって、普段はこんな風に大声を出したりはしない。ただここにいる者が皆気を置かなくて良い相手であること、更にあまりに異常な状況であることが、彼をそうさせているだけだ。
「そう、馬鹿正直には伝えられないよね~」
 と、事の発端であり原因でもあるクレイスラティは、ふふふ…とどこか怪しげな笑いをした。それに悪寒を覚え、エインレールはずざざっとその場から飛び退いた。なんか、嫌な予感がする。こと、こういう場合においてのみ、彼の予感は当たった。
「父様、何か良い案が?」
 それに気付いてか気付かないでか―――おそらく気付いていながら気付いていないフリをしているのであろうアルフェイクが、クレイスラティに訊く。
「うん。あるよ。…………とびっきりのが」
「いまいち良い予感がしないんだが…」
「大丈夫だ。全員同じ気持ちだから」
 それ、大丈夫じゃないんじゃないか? その言葉をエインレールは飲み込んだ。ひとまずは、その案とやらを聞いてやろうと思ったのだ。少なくとも、聞かずに勝手に動かれるよりかはずっと良い。
「つまりね、要は理由があれば良いんだよ」
「理由? たとえば?」
「たとえば―――――国宝である【ツォンの剣】を見つけ、ここに持ってきた者には、第三王子の花嫁になる権利を与える。そのために【ツォンの剣】を隠した、とか」
 …………は?
「あぁ?! ちょっと待て! なんだそれは! わけわかんないだろ。むしろわけ訳が分からないんですが?! それのどこが良い案なんですかこの馬鹿親父!」
「エイン、父様の首が絞まってるから。本気で絞まってるから。そのままいくと…たぶんぽっくり逝っちゃうんじゃないかなあ…?」
「…………。いや、アル、それを言う暇があったら止めた方が良いんじゃないか…?」
 ぎりぎりぎり…と今度こそ胸倉を掴んで詰め寄ったエインレールに、あはは、と笑いながらとりあえず口で止める―――基、口でしか止めないアルフェイク。そんな二人を見て一瞬硬直していたが、すぐに我を取り戻して、笑う兄にそれはどうかと控えめに突っ込むルキアニシャ。
 きっと誰か他の者が居たら、この国はこれで大丈夫なのかと心底心配してしまいそうな、そんな光景。


 ………………。
 ………………………。
「あー、苦しかった」
 全くもうエインは加減ってものを知らないんだから、と全然苦しくなさそうな顔で涼しげに笑う実の父に、脱力感を覚えずにはいられない。もう少し絞めても良かったかもしれない、とエインレールが少しばかり後悔し始めた頃に、
「でも、冗談じゃないよ?」
「冗談にしといてくれ」
 じゃなきゃますます問題だ…。
「でも他に方法ないし」
「普通に探せば見つかるだろ」
「無理だよ。魔法で飛んでったものを追跡する魔法なんてないんだから」
「それは………」
 悔しいが正論だった。じゃあせめて王室でそんな魔法の練習をするなと言いたかったが、言ったところで起こってしまったことは変わらない。
「探すのには人手がいる。しかも、手に入れたそれをちゃんと持ってきてくれるような、そんな理由もいる。失くしたことを知らせずに探した場合、もし全くの無関係者が見つけたら? それを悪用したら? ――――そうしないためにも、国民にはなにかしらの『理由』を言って、それを探してるってことを伝えなくちゃいけないと思うよ」
「だっ……けど、それでも悪用するやつはいるだろうが。持ってきたやつがどっかのスパイだとしたら? それこそ問題だろ」
「ん~…ま、大丈夫じゃなーい?」
 がくっ。
 一気に気が抜けた。
 というか、さっきまでの真剣な表情は一体なんだったのだろう。いきなり破顔して………それに考えてみれば、いやみなくとも、大元の原因はここでにこにこ笑っているその人に違いない。なんだって巻き込まれたこっちがこんなに疲れなくてはならないのだろう。
「そもそも………なんでエインの結婚がその褒賞なんですか?」
「え、だってそろそろお嫁さん探さなくちゃでしょ?」
 さも当然のように答えるクレイスラティに、またふつふつと怒りが湧いてくる。どうどう、とアルフェイクがエインレールを宥めるように肩を叩き、それからまた国王に目を向けた。
「それにしたってやり方が………」
「いや大丈夫ダイジョーブ」
「その根拠は?」
 クレイスラティは胸を張って答えた。
「王として生まれ育った僕の勘」
「一番信用ならねぇ……」
 がっくりと肩を落とすエインレール。アルフェイクが手を置いた方とは反対の肩に、ルキアニシャがぽんと手を置いた。
「ああでもね、もう一つ根拠、あるんだ」
「………何ですか?」
 ルキアニシャが、良い予感はしないけれど、という顔をしながらも、形式上、一応訊ねる。
 うん、あのね、とクレイスラティは前置きして、
「ほら、なんていうか、正義は勝つ? みたいな。こういう話って、大概ハッピーエンドだろう? だから、ね」
 …………………………。
「なあ、アル、この人の首、もっかい絞めて良いか?」
「んー…そうだね、一応止めなきゃね。立場上」
「アル、それは暗に容認すると言っていないか…?」
 一対三。どうみたって勝ち目はない。これが国王(1)VS平民(3)だったならば、勝ち目がないのは平民の方だが、しかしこの場合は王子が三人だ。ならば軍配は―――――

 その数日後、王直々に、俄(にわか)には信じられないようなことが発表された。


 そして―――――――――――その数日前。つまりは王と王子が言い争い(とすらいえないもの)をしている、ちょうどその時。
 ツォルヴェインのはずれ―――南西部に位置する、『ツベルの地』と呼ばれるその場所。ここまでくると、城下町や港のような喧騒は薄れ、鳥のさえずりなどが聴こえる程の長閑さがある。森が広がるその場所は、染め物で使われるツベルの実の栽培が盛んで、来るとしたらそれを買いにくる職人の使いか、あるいは気まぐれで足を運んだ旅人か。それだって毎日来るわけではないから、本当に静かで平和。
 そんな場所で育ったアーシャはいつものように、ツベルの実の様子を見に行くために森に入り、
「…………ん? なにこれ。落し物…? こんなとこに落とすなんて珍しいなぁ。うん、しょ……と、………………………………え?」
 草むらの影から飛び出ていた柄を握り、引き抜くと―――――異様に綺麗な剣。装飾だって並みのものではないし、おそらくとてつもなく偉いその道専門の者がやったのだろうと、素人目にも充分わかる代物。
 しかし、そんなものが、なんだってこんな場所に?
 アーシャは小首を傾げた。皆目見当もつかない。

 そして―――――――――――ここにも、被害者が一人。

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