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[ 今はわからないこと。いつかわかること。 ]
「それにしても、なんであたしがこんなものを着なくてはいけないんでしょうか…?」
顔を顰めてそう言った彼女につられて、改めてアーシャの姿を見る。
「…………なあ、グリス」
「なんでしょうか、エイン様」
「いや………」
言いよどんで、口元を手で覆う。少し考えた後、口を開く。
「アレって、」
しかし、続きが出てこない。けれど彼にはそれだけで伝わったらしい。「ああ…“そう”でしょうね」とため息混じりの声が返ってきた。
“お姫様”を連想させる純白のドレス。ふわりとしたヴェール。
似合っていないとは言わない。むしろ、とてもよく似合っていると思う。よくもまあこんな短時間で彼女に似合うものを繕ったものだ。メイドたちの腕には本当に感服する。…そこに若干の呆れが含まれることは否めないが。
しかし、問題はそこではない。
彼女自身は(何故か)全く気付いていないし、丈は普通のものと比べると短いが、あれは花嫁衣裳と呼ばれるものだ。
(…そういえば)
ユリティアも今日、衣装合わせをすると言っていたか。不意にそんなことが頭に浮かんだ。
しかし、問題はそこでもない。
エインレールが疑問に思っているのは、それを一体何故彼女が着ているのか、だ。
(まあ大体予測は付くけどな…)
じとりとした目を彼の王に向けると、アーシャと話をしていた(からかっていた、ともいう)彼は、こちらの視線に気付いたらしく、にんまりと笑ってみせた。非常に腹立たしい。
「落ち着け、エイン」
グリスが敬語を止め、エインレールを宥めた。エインレールは暫く眉を寄せていたが、やがて深くため息を吐くと、クレイスラティから視線を外す。
「まあ俺があれに何を言っても無駄だろうしな…」
出てきたのは、諦めを含んだ言葉。
「そう嫌そうにも見えないが?」
「お前まで何言うんだ」
「嫌だったら、本気で抵抗するだろう、お前なら」
反論しようとして、出来ずに口を噤む。確かに、そう言われるとそうだ。
例えば今の自分の立場にアルフェイクやルキアニシャがいたと仮定する。彼らは本当に嫌だと思ったとしても、表面上では納得した風に装うだろう。(前者はそう装いつつも裏で手を回す。後者はあまんじて全て受け入れる。という違いがあるが)
しかし自分は違う。彼らほど器用には出来ていないのだ。これは昔から周りに言われ続けてきたことだ。それはある時には長所であり、またある時では短所である、と。
とするならば、自分はこの状況を嫌だとは―――少なくとも、心の底から本気で嫌だとは思っていないようだ。エインレールは自分の心境をそう分析して、しかしはてと首を傾げた。これは一体どういうことか、とまた眉を寄せるエインレールを見、グリスは笑った。
「まあ、今はそうやって悩めば良い。直にわかる。どうしようもないくらいにな」
「…何が?」
「何かが、だ」
わけがわからない。ますます眉を寄せてみせた彼に、グリスは再び笑う。
結局その疑問は、アーシャがクレイスラティの言葉を声を上げて止めたことによって、意識の端に追いやられることとなった。
彼がそのことについてわかるようになるのは、もう少しだけ先の未来だ。