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[ 出逢い ]
そんな彼女も、何も言ってこない日はあった。
そういう時は大概、誰か――正確に言うなら、女友達ではない誰か、だ――と一緒の時だ。
まあそうして笑顔を振る舞っていれば、普通の顔立ちなので、可愛らしくは映るだろう。いつかボロは出るだろうが、元々貴族にはそういう性格の者が割かし多い気がするので、気にしない者も少なくはない。それにあれは対“灰かぶり”用の顔であって、まさかそんな顔を別の相手にするはずもないだろうし。
貴族じゃなくたって、人間そういう面は持ち合わせているものだ。それが見えないのは、単にその人がそういうものを隠すのが上手いだけ。
―――と、少なくともミウラナはそう考えている。
でも、と首を捻った。
今日は一体、なんだろうか。
隣に“誰か”の姿はない。
じゃあ、どうして?
と、そこで彼女の視線が誰かを追っていることに気が付いた。好奇心でその視線を辿ってみる。と、一人の青年に辿り着いた。
その顔に見覚えはあった。確か……そう、宰相の息子、だったか。非常に優秀らしくて、次期宰相と謳われているのは、社交界に敏いとは言えないミウラナの耳にも届くほどだ。
(ま、うちに直接関わりが出てくるわけでもないでしょうし。――ああでも、お陰であの嫌味を聞かずに済んだのは、感謝して良いかもしれないわ)
そんなことを思っていると、その青年に、一組の男女が近寄っていった。夫婦ではない。親子だ。その片方には見覚えがあった。その片方の人物の視線を辿って、彼に行き着いたのだから、まさか無いとは言えない。
彼らが何を期待しているのかを正確に読み取ったミウラナは、
(なるほどね~)
とだけ思った。それから親子の相手をしている青年が笑顔の裏で憤っているのもなんとなく理解する。よくもまあ、と感心した。自分だったらきっと、いつかの彼女へした時のように、無表情で返してる。
(有名人は大変ってことね)
自分も別の意味で有名だということはさておいて、うんうんと頷きながら、けれど意識はもう食べ物の方にいっている。
要するに、この時点において彼女にとっての彼は、その程度の興味しかなかったのである。
そしてこの邂逅とも呼べない最初の出逢いは、結局次の“出逢い”の時には思い返されず、それからかなりの月日が経った後に、ようやく思い出されることになるのだが――――
遠い記憶に対し、彼女はぽつりと呟いた。
「私って、本当にあの人に興味が無かったのね」、と。
それが理由で彼と親しく話すようになったのだから、人生というのは全くもって不思議なものだと考えながら。