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生きたいと想って。生きたいと願って。だから生きているのだと思えるこの場所で――
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 正直それで終わったと思った。
 いかに剣が防げても、至近距離からの自爆に巻き込まれて生き残るのは相当難しいからだ。しかも刃を交えたまま。一歩下がろうものなら、爆発ではなくその刃が身に刺さる。
 本当に悪態を吐きたいのは自分の方だ。
 そう思いながら、迫り来る光を睨み、

「押し退けろ!」

 声に反応できたのは、おそらく奇跡だっただろう。
 それがあまりにも強いものであったから、思わず従ってしまった。火事場の馬鹿力、というものも本当にあったのだろう。普段なら絶対に成功もしないし、だからこそ実行しないその行動は、その時見事成功し、剣と剣が交わっている感覚がなくなり、

 ―――――バアァァァァァアンッ

 先程と同じ、そして先程よりもずっと大きな爆発音。
 それは、城の外―――もっと正確にいうのなら、その上空で聞こえた。
「え…な、なんで」
「私がやったからだ」
 …その声には聞き覚えがあった。あの部屋の外、ということもあってか口調こそあの時と違う―――いや、最初の方は確かに威厳溢れる声だったか?―――が、しかし間違いない。
「……………」
「ん、なんだい。その微妙な顔は」
 にこにこと笑うクレイスラティに、いえ…、とアーシャは顔を逸らした。少し身体が震えている。なんだか妙なトラウマが出来てしまった。
「えぇと…ところで」
「ああ、そうだ君。どうやら侵入者はあれで全部のようだけれど、念のため城内の見回りを徹底的に行うようにとマーフィンに伝えておいてくれ」
「は、はいっ」
 アーシャの言葉を遮り、突然国王から自分に向けられた言葉に、メイドは肩を大きく震わせながらも、確りと返事をし、ぱたぱたと走りながらその場を去っていく。それを見送ってから、クレイスラティは纏う雰囲気を緩ませた。
「いや~、間一髪だったねえ」
 口調も元に戻っている。あのメイドを引き止めておくべきだったかもしれないと、その場にいた全員が思った。
「あの、今のは?」
「ん…まあ話を聞きたかったんだけど、どうにも無理そうだったからね。あんなところで自爆なんてされちゃかなわないし。だから別の場所に移ってもらった」
「また魔法ですか」
 ふう、とアーシャはため息を吐いた。
 魔法、というとなにやら神聖なもののような気がして、憧れに似た想いを抱いていたのだが、どうもここにきてそのイメージが崩れつつある。曰く、厄介なもの、だ。ここにきてからは嫌な思い出しかない。今さっきのものは、確かに命を助けてくれたが……。
「またアレ使ったのか…。変なとこ飛んだらどうする気だったんだよ」
「どうにかする気でしたよう? まあ、結果的に空に打ち出されただけだったし、良いんじゃない? なんか一回使ったら、コツが掴めたから」
 また、ということは以前に使ったことがあったのだろうかと首を傾げ、それからある一つの仮説に辿り着き、「まさか…」と呟いた。
「あの剣を飛ばしたのも、アレですか」
「そうそう。転移魔法ね。上手くいくとかなり便利」
 上手くいかなかった所為で被害を被(こうむ)った者の前で、よくもまあそんなことを言えたものである。
 しかし、そのおかげで今回助かったのは事実だ。下手をすればあの爆発魔は城下町に飛ばされていた危険があるのだが、それも(結果的に)回避できたからよしとしよう。コツを掴んだというからには、それなりにコントロール出来るようになったらしいし。
 アーシャはふう、と息を吐いた。極度の緊張状態から急に抜けたせいで、身体に力が入らない。
「それにしても僕はアーシャさんが剣を扱えたことに驚いたけど」
「ああ、かなり腕が良いみたいだが……それはどこかで習ったのか?」
 エインレールの言葉にこくりと頷く。
「ツベルの森は魔獣も出ますから。自分の身は自分で護るってことで、皆、幼い頃から習ってるんですよ」
 提案をしたのは、大婆様だったらしい。それまではそんな習慣がなかった。というか、それまではそこまで魔獣が多いわけではなかったらしい。まあ、それが結果として自身のひ孫を助けることとなったのだから、大婆様も喜んでいるだろうと、アーシャはその姿を思い浮かべながら笑った。何にせよ、自分の腕が褒められたことは純粋に嬉しかった。
「そうなのですか。ですがそこまでの腕となると、やはり師が素晴らしい人だったのでしょうね」
 その言葉に、はてとアーシャは小首を傾げる。
「師というか……あたしに剣を教えてくれたのは、祖父でしたけど」
 素晴らしいのか? そりゃ、あの地において、祖父は随一の腕前の持ち主だが。
「それじゃお爺さんは誰かから習っていたのだろうな」
 エインレールの言葉に、そうだっただろうか、とアーシャはまた首を傾げたが、言葉にはしなかった。祖父はまだ健在なので、帰った時に訊いてみようと心に決める。
 しかし、本当にそんなに優秀なのだろうか。そもそも祖父があの地を出ることなど本当に稀だったと大婆様や祖母たちから聞いたし、周りを心配させないようにと、城下町の方に出てもすぐに帰ってきたのだという話は、家族だけではなく、近所の者の口からもよく聞くほどだ。
 現に自分の記憶にある祖父も、厳しいには厳しいが、それがこちらを思いやってのものなのだとすぐにわかるような厳しさだった。つまりそういう優しさを兼ね備えた人だということだ。それを自分の孫だけでなく、周りの子供全てに平等に与えているから好かれているのだろう。
 自分よりも他人のことを思いやり、極力大切な人の傍に居ようとした人であったため、外で剣を習っている時間があったようには思えない。祖父ほど強い人は彼が生まれる前からもいなかったという話を聞いたことがあったので、基本くらいは誰かから習ったのだろうが、後は独学で腕を上げたのだろうと、そう思っていたのだが、違ったのだろうか?
 今もこの時間なら剣を教えているだろう祖父を思い浮かべ、なんだか無性に、帰りたくなった。これが郷愁に駆られるということなのだろうか。それにしては、まだ一日も経っていないが…。そう感じてしまうのは、今日一日だけでいろいろなことがあった所為かもしれない。
 疲れているのかも、とアーシャは首を左右に振りながら、意識を目の前のことに戻す。
「ところで、さっきの人たちは一体…。他にもいたそうですが、怪我をした方はいらっしゃるんですか?」
「ああ、いるみたいだね。さすがに急に爆発されると、ね…。重傷者もいるそうだが、命に関わるほどではないそうだよ」
「そうですか」
 ホッと胸を撫で下ろす。それから、今頃になって自分もその餌食になりかけたという恐怖に駆られ、背筋が寒くなった。
 アレは本当に、狂気だ。目的を達成するためなら、自分の命でさえもなんの躊躇いもなく捨ててみせたのだ。
「それで、どうして彼らは君を狙ったのか、わかる?」
 え、とアーシャは目を丸くする。そうだ、考えてみれば、事情を知らない者が傍目から見たらそう捉えてもなんらおかしくはない光景だった。そのことについて説明しようと口を開き、しかし閉じる。一体彼は誰を狙っていたのだろう。最初に名前の一方的な確認を取られ(そして勘違いされ)たが、長すぎてなんと言っていたのかが思い出せない。あるいはあのメイドならばわかるかもしれないが、彼女の名前も訊いていない。
 まあいい。とりあえず事情だけでも、とアーシャは先程あったことを事細かに話した。どれが必要だったかわからなかったし、そのため話さずに重要な見落としがあったらいけないと思ったからだ。

「すると………彼らは王女を狙っていたわけだね」
「ええ、たぶんですけど。あたしがこんな格好しているから勘違いしたんでしょうね。―――それにしても、なんであたしがこんなものを着なくてはいけないんでしょうか…?」
 すっかり忘れていたが、元の服はどこにいってしまったのだろう? あの服であれば、もっと自由に動けたのに…。
 苦々しい表情を作ったアーシャに、あははっ、とクレイスラティが笑った。完璧に人で楽しんでいる印象を受ける。
「まあ似合ってるから良いんじゃないかなぁ」
 他人事だと思って、とアーシャはムッとした表情で切り返す。
「似合ってません。重いし、動きにくいし。こんな服装で平然と歩けるお姫様のこと、ますます尊敬しました」
 尊敬はしてもなりたいとは思いませんが、と苦虫を噛み潰したような顔をしたアーシャに、クレイスラティはにこにこと、やはり楽しんでいるような顔で、
「え、なるんでしょ? お姫様。そこにいる僕の息子の」
「なりませんよっ!」
 当人の意思関係なく本気でやりそうだから、とても怖い。なりませんように、と心の中で願うように呟き、また脱線してしまった話を元に戻した。
「で、どのお姫様なんでしょう?」
「うーん…そうだねえ、フィラティアス、フウメイ、アラスナル……」
 と、突然に女性と思しき名を連ね始めた。すぐに意図をくみ、その響きに聞き覚えがあるかどうかを確かめる。
「エナーシャ、ベルフラウ、ユリティア、クリスティー……」
「その人です!」
 次々と上げられていく名前の中にソレを見つけ、アーシャは声を上げ、クレイスラティの言葉を止めた。

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