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生きたいと想って。生きたいと願って。だから生きているのだと思えるこの場所で――
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 茫然自失。まさにその言葉がよく似合った。
 残された王の子四人と、その家来である二人の男―――背が高く体格の良い、精悍な顔立ちをした方がグリス・セスチャインで、もう一人の、一見すると優男といった感じの男はマーフィン・カルロという。どちらも旧知の友であり、信頼のおける家来であるため、国王のあんな姿も見せられた―――は、一様に困った表情をしていた。
 今のは一体、と誰もが口にしたそうで、けれど出来ないでいた。
 そんな中でどうにか最初に口を開いたのは、クリスティーだった。かなり無理やり明るくした声で、エインレールに笑顔で話しかける。
「えっと……よ、良かったわねエイン兄様! あんな可愛い人が婚約者で!……なんかよくわからないうちに連れてかれちゃったけど」
「いや良くない。ていうかなんだあれは。あの馬鹿親父は何考えてやがる?」
 クリスティーとエインレールが遠い目をしている隣で、
「彼女に言った理由もおそらくあるんだろうが…九割方は本人が気に入ったのと、あとは余計なお節介と、それからただ楽しみを追求しただけの結果だと」
 ルキアニシャが心底疲れきった笑みを浮かべた。彼は結構な常識人だ。それこそ、あの親の血を受け継いでいるとは思えないほどに。もしくは、あの父を反面教師として育った、というべきか。
「まあ、良いんじゃない?」
 にこにこと、アルフェイクが笑って、
「どこが」
 エインレールががっくりと肩を落とした。
「アル様」
「アルで良いよ。どうせ他に誰もいない」
 では、とグリスが口を開いた。敬語を一切排除した口調で、
「アル。お前も、楽しんでいないか?」
「………まあ、他人事だし」
「ちょっと待て」
 それはあんまりじゃなかろうか、とエインレールは実の兄をねめつけた。おそらく、現国王の血を色濃く受け継いでいるのは彼だろう。見事に受け継がなくても良いところまで受け継いでしまったようだ。それでもアレよりかはマシか、と兄と父を比べ、エインレールは考える。
「あー、まあ、これで剣も見つかったし、一件落着ってとこかしら」
「落着じゃねえ。問題が残ってるだろう」
「エイン様が覚悟を決めれば落着です」
「マーフィン、喧嘩売ってるのか?」
「まさか。ああすみません、ご結婚おめでとうございます、と先に祝辞を述べるべきでしたか」
 にっこり、とその堅い表情を崩し笑うその様は、見ようによっては敬愛する主に向けられるものであったが、内容は限りなくそれとは正反対の、嫌味がたっぷり込められたものだ。
「結婚してない。その前に、婚約だってしてない。ていうかあの馬鹿の暴走を誰か止めろ」
「俺には無理だ。エイン、お前のことだ。お前でどうにかしろ」
 ルキアニシャのその言葉に、たまたま白羽の矢が立たなかったという理由だけで無関係面をするな、とばかりに本人を睨む。ただ逆の立場だったら自分もおそらくそうしただろうから、あまり強くは言えない。しかし冷静になって考えてみると、アルフェイクはもう結婚して子供まで儲けているし、ルキアニシャだってまた然り。婚約者が存在している。となると、誰があの国王の標的にされるのか、最初から大方予測がつけられたに違いないのだ。特に、自分以外にあそこにいた連中は。つまるところ、この仏頂面している兄だって。
 やっぱり強く言えるかもしれない。エインレールがそう思った時、クリスティーが、あ…、と何かを気付いたように声を上げ、
「剣が見つかったってことは、あと待ってる人はもう帰しちゃって良いわよね。…顔見とく? どこの誰が来てるのかって」
「ん? ああ、そうだな――――でもまさかあんだけ偽物が集まるとはなぁ」
「僕としては、本物が出てきたことが驚き」
「最初からあまり期待はしていませんでしたからね」
 アルフェイクの言葉に、マーフィンが同意した。
「それにしたって……あそこまで馬鹿が多いとは。見分けがつかないとでも思っていたのか…?」
「どうでしょうか」
「…というと?」
 続きを促すように言えば、マーフィンは、
「普段出入りしない人間が剣を持って入っても、止められませんからね。つまり――――」

 ―――――――その言葉を遮るように、悲鳴が響いた。

「賊が入ってくる可能性が高い、と―――本当に来たみたいですね」
「っ、なんでそんなに落ち着いてる!?」
「そのために兵を配備しておりますし。大丈夫ですよ」
 全く焦った様子のないマーフィンを見ていると、逆に焦りを感じる。特にそれが顕著なのはエインレールだった。普段ならどうということもないが、先程からの件で相当まいっているのだろう。
「あの方…アーシャさん、といったかしら? あの方は大丈夫なのかしら」
 不意に、クリスティーが考え込むように零した言葉に、一同は首を傾げた。その視線に応え、クリスティーが口を開く。
「だって、さっきのマーフィンの様子からいって、あの拉致まがいのことって予想外なんでしょ? いたのはメイドだけだったし…兵はついてなかったわよね? で、その彼女たちが連れていったということは、身なりをどうにかするためって理由でしょう? 私室を使う気満々だったし、それならアーシャさん自身が相当上の者だと思われて狙われる可能性だってありそうよね。―――――極めつけに、さっきの悲鳴、女のものだったし」
 まあ女だからといって、先程彼女の連れ去っていった中の誰かのものだとは限らないのだが、しかし。
 しかし、だ。
 クリスティーがそこにいる人間の顔を見た時、彼らの表情から今まであった余裕が綺麗サッパリ消え去っていたのだから、不安を抱くなという方が無理だろう。
 まずマーフィンとグリスが顔を見合わせると、グリスが走り出す。
 こちらに指示を出そうと言うのだろう、マーフィンは口を開き、
「俺は行くぞ。悪いけどな」
 エインレールがそれを聞かずに走り出した。
 静止の声が掛かったが、それもどうやら無意味だったようだ。仕方がないとばかりにマーフィンは肩を竦めると、自分たちも行きたいという思いを隠そうともしていない主たちの顔を見やり、
「…行ってはいけませんからね?」
 とりあえず彼らだけでも、と釘を打った。こればかりは、相手が王族でも―――いや、王族だからこそ、何がなんでも聞いてもらう。

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