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生きたいと想って。生きたいと願って。だから生きているのだと思えるこの場所で――
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 夜の帳が降りてゆく。
 世界はゆるりと闇の中へ堕ちる。こんにちは、夜の精霊が笑う。
 光とはさよならを。また明日。そうして笑って挨拶を交わす。
 何(いず)れ闇が再び静まり、光が甦ると知っているから。
 だから――――――――


 さあ寝る時間だよ、とその声が、幼い子供を眠りへと誘(いざな)った。素直にそれに従って、ベッドに潜り込む。
 いい子ね、と頭を撫でられる。それがあまりに気持ち良くて、まどろむ意識。それでも何故だか、そのまま眠ってしまうのは勿体無い気がして、何かお話を聞かせて、と強請(ねだ)る。
 それならばとその口から、物語が語られる。

 昔々、とはいっても、そう遠くはない昔のお話。
 世界の夜は黒い闇に覆われ、白き月の光に守られていました。
 しかしその平和を壊す者がいたのです。
 ソレは白い闇を従え、黒き月を創りました。
 ――― こわいよ。こわいよ。あれはなあに?
 ――― そらがしろい。つきがくろい。
 ――― あれはこわいよ。
 木も草も風も、もちろん人間も。皆、恐怖に身体を震わせます。
 ただ唯一、魔獣と呼ばれるものたちだけが、かの存在を歓迎しました。
 白い闇、黒き月のもと、魔獣たちの晩餐会が始まりました。それはそんな夜が明けるまで、ずっと続きます。
 人々は、ますます恐怖に駆られました。
 そんな中、二人の人間が立ち上がりました。その人間は、暁の王、月姫と呼ばれていた存在でした。
 二人は協力して、ソレを倒しました。
 世界の夜から白い闇がなくなり、同じように黒き月も消えました。
 そうして再び、黒い闇と白き月が、世界の夜に戻ってきました。
 木も草も風も、もちろん人間も。皆、笑みを浮かべます。
 世界は再び、平和になりました。
 めでたし、めでたし。

 そこまでをまるで唄うかのように語り、気付けば幼い子供は眠りについていた。おやおや、とその顔に笑みが灯る。その頭をもう一度、優しく撫でる。
「ゆっくりおやすみなさい、わたくしたちの可愛い子」
 今は、その時ではないのだから。
 窓の外に広がるは黒い闇。そこに浮かぶは白き月。
 それは平和の象徴。
 だから今は、まだ。
 ただおやすみ。


 夜の帳が降りてゆく。
 世界はゆるりと闇の中へ堕ちる。こんにちは、夜の精霊が笑う。
 光とはさよならを。また明日。そうして笑って挨拶を交わす。
 何れ闇が再び静まり、光が甦ると知っているから。
 だからこれは―――――――

 黒い闇が世界を覆い、白き月が浮かんでいる、そんな世界でのお話。


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