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生きたいと想って。生きたいと願って。だから生きているのだと思えるこの場所で――
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 ずっと、ずっとずっと、考えていたことがある。
 自分たちの在り方についてだ。

 たとえばムトリ=ルー。
 あれは悪意の塊である。あるいは、悪意の残り滓とした方が、いいのか。ともかく、そんなものの集合体である。その中の“ムトリ=ルー”と呼ばれる思考が、それらを纏め上げている、そういう存在だ。本来ならばもっと醜悪で、それはある意味でどこまでも純粋であるはずのもので、それこそ自分の欲求にひたすら忠実であるはずだが、どうやら自分たちの存在が邪魔をしている、もしくは“抑制となっている”らしく、今のところそれが完全に解放されたことはない。

 たとえばイル=ベル。
 こっちは、善意の塊である。非常に数が少ないものであるためか、純粋に力は強いくせに、どこかがおかしい。とりあえず、喜怒哀楽が激しい。とはいえ、“怒”だけはあまり出ていないし…よくわからない。あれもあれで、抑制は効いているということなのか。けれどそれにしては、よく泣く。ひょっとしたら、集まっている欠片は赤ん坊のものが多いのではないかと疑ってしまうくらい、よく泣く。もしかしたらあたっているのかもしれない。長く生きた上で善意の塊のままでいられる者なんて、きっとほんの僅かだから。

 ともあれこのふたつには、確固としたカタチが存在する。
 ムトリ=ルーは、細工が得意だ。複雑な術式に長けている。それが良い意味で発揮されることがないのが、難点だが。
 イル=ベルは、ただとんでもなく魔力量が多い。…現状、それが有効に活用できているかと問われると、首を捻ってしまうところがあるが。
 双方何かしらの問題は抱えているとはいえ、カタチ自体はしっかりしているのだ。
 対する自分はどうだろうか、とレイ=ゼンは考えるのである。
 自分は、どちらにも属されなかったものの集合だ。純粋なそれら二つよりも数はかなりあるが、それだけだ。二つに比べれば突出した部分はない。数がある分、存在自体の不安定さも残る。
 ―――要するに、どっちつかず、なのだ。
 だから、不安定。
 今更それに劣等感を覚えるわけでもないが、しかし、自分の在り方について首を捻ることは、やはりたまにあるのである。
 答えを出そうと思っているのだが、なかなかどうして難しいもので、結局途中で放棄してしまう。別にそれでも構わないか、とも思う。出したところで、何が変わるわけでもない。いや、違う。出して自分が更に不安定になることが怖いだけだ。おそらく。
 だから、出なくてもいい。
 そう思っていたはずなのに、それはふっとしたところで、唐突に、出てきてしまったのだ。
 何故このタイミングで、辿り着いたんだろうな、と思う。たぶん、このタイミングだったからだろうな、とも。
 そんなことを、ただただ膨大な魔力の塊が迫ってくる中で、考えていた。

 つまり、自分こそが、抑制力、なのではないかと。
 中間を保つ存在である、自分こそが。

 たぶん、あのふたつはひどく似ている。性質が違うだけで。
 だからこそ、ある一面でぴったり重なる。
 そうなれば、きっと止まらないだろう。
 たとえばそれは、怒り、だったりするのかもしれない。大切なものを壊された時の、純粋な怒り。それがもしも同じ方向に向いたら、重なってしまったら、それは互いが互いの力を更に助長して、より大きなものに変わっていくのではないかと。
 思ったところで、レイ=ゼンは内心で舌打ちした。
 ―――しくった。それなら自分がここに飛び出すことは、決して最善ではなかった。
 自惚れではない。けれど、彼ら二人にとって自分がどのような存在であるかは、良くも悪くも、なんとなく、わかっている。だから。
 その内のブレーキが外れたら、いったいどうなることか。
 でも、それでも。
 きっとこれが最善ではないと知っていても。
 自分は同じことをしただろうなと思って、一人嘲笑(わら)った。

 視界の端に、見知った色の魔力の塊が、見えて。それがなんであるかと理解した瞬間、馬鹿だな、と今度は微笑う。
(お前、なんの加工も無く魔力だけぶっ飛ばすの、苦手だろうが…)
 それが、光に飲み込まれる直前に、レイ=ゼンが考えたことだった。


 そこから覚醒するまでは、一瞬だったように思えた。あくまでそれはレイ=ゼンにとっての一瞬であるが。
「う…」
 自分の呻き声で、意識が戻る。
 一瞬何があったのかを忘れ、しかしすぐに状況を把握した。生きてるな、と確認のように頭の中で呟く。
 まず身体を動かそうと試みた。だができたのは、かろうじて瞼を持ち上げられる、その程度だ。それ以上は、まだできない。それでも、変化があったこと自体が、大事であったらしい。
「レイ=ゼン…?」
 恐る恐る、という少女の声に、さてどうしたものか、と考える。どうにか反応してやらなくてはとは思うのだが、まだ完全に回復したわけではないようであるから。とりあえず、喋れない。
 仕方がなしに、顔を本当に微かに動かし、まだ半開きな目でそこに立つ二人の姿を確認する。
「よかった! 目が覚めたんですね!」
「…まだ動けそうもないけど。まあ好都合、かな?」
 喜ぶイル=ベルはいいとして、ムトリ=ルーの発言はいったいどういうことだ。いつもの冗談、ではなく、どこか本気染みたそれに、眉を寄せようとし、しかしそれもできない事実に気付く。
 どうしようもないので、目だけで訴えてみる。
 ムトリ=ルーは答えない。わかっているくせに、だ。
 いつもの軽薄そうな表情の中に、普段ではありえないものが混ざっている。それは純粋に喜んでいるように見えるイル=ベルの、瞳の奥も同様で。
 ―――それで、悟った。
 何をしようとしているのかを、だ。そしてそれをしようとしているのが、おそらく彼一人ではないことも。
「お、ま…!」
 搾り出した声は、しかしそこまでが限界だった。
 本調子ではない――どころか、体力切れのようだ。くそ。と悪態を吐くことすらできないなんて。こんな肝心な時に。
「見逃してよ、ね」
 感情が読みにくい、ムトリ=ルーの声が響く。
「いいでしょ。結果が同じなら、工程なんて誰も気にしないさ。“アレは消される”。それが正しく行われるのなら、そこに別の目的があったって、構わないはず、でしょ?」
 いまいち事情が飲み込みきれないが、要するに自分が遭遇したアレは、どうやら他の神にとっても厄介なものであったらしい。で、何をどうしてそうなったのか――おそらくムトリ=ルーがごり押ししたのだろうが、その討伐に彼らが関わっているらしい。大方そんな感じだろう。
 目を、イル=ベルに向けた。彼女はハッとしたように目を見開いたが、次の瞬間にはなにか決意を固めたような顔で、彼女には不釣合いな笑みを浮かべた。
「ごめんなさいなのです、レイ=ゼン。あたし、…あたしの所為だって知ってます、でも、やっぱりあの人、許せないです」
 ―――畜生。
 せめて口が動けば、こいつを怒鳴りつけることができるのに。
 瞼が自分の意思に反して落ちていく。
 こんな時になんだって自分の予想が当たるのか、本気で恨みたくなった。冗談じゃないぞ、おい。
「ば…」
 馬鹿野郎、と言いたかった相手は、二人か、自分か。
 その答えに到達する前に、レイ=ゼンの意識は再び沈んだ。

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岩月クロ
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