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生きたいと想って。生きたいと願って。だから生きているのだと思えるこの場所で――
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「―――金髪に、紅…赤眼をしているんです。身長は俺より低いくらいなんですが、ここに来ていませんか?」
「私は見ていませんが―――おうい、お前、金髪に赤眼の娘さん、見てないか? え? 何? ああ、他に?―――ええと、すみませんお客様、他に何か、…例えば羽が生えているとか、耳が長いとか、そういう特徴はありませんか?」
「ありません。基本的な造りは、俺と同じです」
「そうですか。―――訊いてたか? ああ、それは良かった。それで見覚えは? え、無い?―――お客様、申し訳ありませんが、ここには来ていないようです…」
 心底申し訳なさそうな表情を浮かべた受付の男に、レイ=ゼンは笑って、別に良いと言った。が、内心では非常に落胆していた。
「それでは……すみませんが、オーランの骨董店の場所を教えてもらえますか? それから、今日の午前に何か事件か事故がありましたら、その内容と場所を教えて頂けると助かるんですが」
「ええ、良いですよ。少々お待ちください。紙に写しますので」
「お願いします」
 奥に引っ込んだ受付の姿を見てから、待合室のソファに座る。収穫は無さそうだった。はあ、と無意識にため息が零れる。窓の外を横切る人に視線を走らせ、彼女の姿を捜す。
 時計に目をやると、もうあと一刻ほどで正午になることがわかった。ここで目ぼしいものが見つからなかったら、少し外をうろついてから集合場所に向かおう。もしかしたら、ムトリ=ルーの方で彼女を確保できているかもしれないし。
「………とんだ休日だな」
 ぽつりと呟く。
 彼女は大丈夫だろうか。どっかで転ぶか激突するかして、怪我でもしていそうだ。いや、それくらいで済んでいるなら、まだ良いのだが。
 考えれば考えるほど湧いてくる不安に飲み込まれぬよう、頭を振る。ちょうど受付の男がまた窓口に顔を出した。名前を呼ばれる前に、近付く。
「上がオーランの骨董店の場所、下が事故の情報となっております」
 素早く目を通す。とりあえず、彼女らしい人物の情報は書いていなかった。事故に合わなかったことに安堵するべきか、結局居場所がわからなかったと落胆すべきか、微妙なところだ。
「お手数をお掛けしました。ありがとうございます」
 頭を下げて、役所を後にする。
(さてどうするか…)
 一応オーランの居場所(やはり前に訪れた時と変わっていた)は訊いたものの、彼女が場所を訊ねていないのであれば、意味は無い。事故の情報も、また然り。彼女が関わっていないのだから、現場近くに行ったところで、無意味だ。
「まいったな…」
 レイ=ゼンは片手で頭を押さえた。
 こうなれば、本当に片っ端から通る人に訊いていくしかない。よし、と気合を入れなおして、一歩踏み出したところで、
「わっ」
 通行人とぶつかった。どうやら流れとは違う方向に歩こうとしたため、それに沿って動いていた者と、衝突したようだった。相手が小さかったため、レイ=ゼンはよろめくこともなかったが、相手にとっては違ったらしい。その場でふらついていたので、謝罪を口にしながら、その身体を支えた。
「っと、大丈夫か? すまなかった」
「ん、いいのっ! だいじょぶ、なのっ! おにーさんこそ、だいじょぶ? ぶつかっちゃってごめんなさい」
 予想通り、まだ子供だった。顔立ちもそうだが、すっぽりとローブを着込んでいることもあって性別まではわからない。
 背はレイ=ゼンの腰くらいまでしかない。この街には、たまにこのサイズで成人という観光客(つまりどこかの世界の“神”)もいるのだが、少なくともこの子供は違う。額に商人の証が付いている。
「ああ、いや、本当に今のは俺が悪かったんだ」
 そのままついでとばかりにイル=ベルのことを訊こうと思って、
「ん? んん?」
「………どうかしたのか?」
 しきりに首を捻る子供に、つい別のことを訊ねてしまった。
「んーっ、おにーさん、おねーさんと“同じ”だね!」
「………“おねーさん”?」
「そう、おねーさん! 金色の髪にね、赤い目のキレーな人だよ!」
「…………」
 キレー、かどうかは知らないが、それを除けばそうだという可能性はある。なにせ、相手は“商人”だ。特にこの世界のソレは、目がよく利く。それから、鼻も。物質的な意味ではなく。彼らは根っからの“商人”なのだ。少なくとも、他の者が言うよりかはずっと信憑性がある。
 まさかの展開だ。というか、こうまで簡単に情報が得られるとは。今までの自分の苦労は一体、と少し眩暈に似たものを覚えた。まあ、見つからないよりは良いが。
「そのおねーさんはどこにいたんだ?」
「んー……おにーさん、おねーさん捜してるの?」
「そうだ」
 頷くと、子供はこてんっと小首を傾げてから、にっこりと笑った。小さな指が、真っ直ぐに子供が歩いてきた方向を指す。
「あっちだよっ」
「………あー。悪いが、その“あっち”ってのは、どこらへんだ?」
 抽象的過ぎる。ただでさえ道の多い街なのに。さすがにそれだけでは情報が少なすぎる。
「んとね、ここから二つ目の角を左に曲がったところだよ! さっきまでお話してたの!」
「そう…ありがとう。少ないが、礼だ」
 ポケットに手を突っ込み、そこから銀貨を二枚取り出す。セルディの共通通貨だ。ここに入る前に、自分の世界の物と交換してもらったものだ。それを子供の手に確りと握らせると、すぐさま走り出した。
「あれっ、おにーさん、多すぎだよう!」
 後ろから聞こえた声に、立ち止まって受け答えるだけの余裕は無い。一秒目を離せばその辺で躓き、三秒目を離したら逸れるようなイル=ベルが、先程まで子供と話していたからといって、今も安全な状況にある保障などどこにもないのだ。もはやこれ以上の時間は取れない。
「言ったろ。礼だ! それだけ感謝してるってことだと思えば良い!」
 肩越しに振り返り、叫んだ。「んー?」とわかったようなわかっていないような子供の声が、段々遠ざかっていく。


「感謝…感謝は嬉しいもの、だよね」
 そうは言ってたものの、子供は手渡された銀貨二枚を持って、困っていた。いくらなんでも多すぎる。それでも気持ちだというのだから、受け取るけれど。それが礼儀というものだ。過ぎた遠慮はいけないと、親も言っていた。
「んー、でもなあ…飴のお礼にしては、やっぱり多すぎるんだよ?」
 小首を傾げる。頭の中で勘定をして、ますます首を傾げた。
「いくら三本っていっても、銅貨9枚くらいだもの」
 そう思って顔を上げたのだが、その時には既に黒髪の青年は角を曲がって見えなくなっていたのだった。


 ひとつ……ふたつ………。
 数え、曲がった。
 金色が、視界に入って。
「イル=ベル!」
 名前を呼ぶと、「ほえ?」となんとも気の抜ける声が返った。

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岩月クロ
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