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生きたいと想って。生きたいと願って。だから生きているのだと思えるこの場所で――
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「で、どうする?」
「どうするって……捜すしかないだろ」
 捜さない、という選択肢は元より無い。当然のようにそう言えば、そうだねえ、という返答があった。
「それじゃあ、二手にわかれて捜した方が良いんじゃない? そっちの方が早いし」
「連絡手段も無いのに、こっちまでわかれてどうする」
 三人ばらばらになるのが一番厄介だ。まあいざとなれば、自分の“世界”に帰るという手もあるが。―――しかし、レイ=ゼンとムトリ=ルーはそれでいいとして、イル=ベルがそこまで無事に辿り着けるのかというと、正直怪しいところがある。
「こうすればいいんだよ。―――見つかっても見つからなくても、正午に、南の時計台に集合。あ、昼食は勝手に食べないこと。軽く何かを買って食べるくらいなら別に咎めることはないけどね」
 それだけ言うと、ムトリ=ルーは「それじゃまたあとで」と勝手に歩き出してしまう。彼の中ではもうその案は決定していることのようだった。ちょっと待て、とレイ=ゼンは声を荒げたが、彼はひらひらと手を振って、すぐに人混みの中に紛れて見えなくなってしまった。
(勝手な奴…)
 彼が勝手なのは、ある意味いつも通りなわけだが。
 レイ=ゼンは暫くムトリ=ルーが消えた方向を睨んでいたが、やがて自分も歩き出した。彼とは逆の方向に。当たり前だ。同じ方向を捜すのは単なる二度手間だ。
 しかし彼が本当にイル=ベルを捜すかどうか、その確証は無い。なにせ彼は極度の面倒くさがりで、面白いことが好きだ。“これ”が彼にとっての“面白いこと”なのかは、レイ=ゼンにもわからない。
 だからただ、大丈夫だろう、という勝手な思い込みがあるだけだ。
 ムトリ=ルーはイル=ベルを―――そして、おそらく自分のことも、見捨てない。絶対に。他の何は捨てても、それだけは絶対に。
 だから背を向けたのだ。あっちは彼に任せて大丈夫だろう、と。


 とはいえ、どこから捜せば良いのか。
 片っ端にヒトに訊いて行くには、如何せん数が多すぎる。どうしたものかな、とは思うが、しかしそれ以外に方法が無いのも確かだった。知人でも居れば良いのだが、それに該当するような人物はいない。顔見知りはいるにはいるが、それは知り合いというには付き合いが無さ過ぎる。
 神が複数居るところは、大体がそんな感じだ。一人だけのところより、多少排他的になる。そういうものだ。
 というか、それ以前の問題として、その“顔見知り”が今どこにいるのかがわからない。相手は“商人”なので、この世界のどこかにいることは確かだが、固定の店を持っている割にころころと移転を繰り返す奴なので、場所の特定が難しい。彼の商人仲間に訊くか、もしくは“役所”に行けば場所は分かるが、そうまでして捜したいのは彼ではなく、イル=ベルだ。そもそも前者はやはり彼と同じように、どこにいるか分からない。
 しかし、と考える。もしかしたら、イル=ベルも同じように考えて、役所に顔を出したかもしれない。とりあえず、闇雲に訊いていくよりかは、マシだろう。尤もそれが封じられたら、その後は結局“闇雲に訊いていく”破目になるのだが。
 一先ずの方針を頭の中でまとめながらも、レイ=ゼンの足は先程から止まることはしていなかった。傍目から見ると、最初から目的地があって歩いているようにも見えただろう。それだけ確りとした足取りだった。
 ここから一番に近いのは、この世界の東にある役所だ。周辺の地図を頭の中に思い浮かべ、軽く方向修正する。
 そうしながら、万が一の場合を考え、周囲に視線を走らせる。考えに没頭していて横をすり抜ける彼女の姿に気付きませんでした、なんていうのは阿呆すぎる。………いや、流石に横を通れば、気付くだろうが。
 でも、彼女は気付かないだろうな、と思う。自分は気付けるとしても、彼女には無理。特に一人になって沈み込んでいるであろう彼女には。
 だから自分が見つけなくてはいけない。そのために、周囲には常に注意を払っておく必要がある。
 ―――いっそどこかで問題でも起こしてくれれば、すぐに見つけられるかもしれない。
 ふとそんな考えが浮かんだが、すぐに否定する。それじゃダメだ。やはり彼女は沈み込むだろうし。あれは沈むと、浮上するまでが大変だ。
(………泣いてないと良いけどな)
 彼女なら十分に有り得る話だ。
 そんな光景が容易に頭に浮かんで、それが自分が泣かせた時とだぶって―――
「くそ…」
 知らず、悪態が漏れた。横を通り過ぎた者が、ぎょっとした表情を見せたが、気にする余裕はない。

 結局、市役所に着くまでの間に彼女を見つけることはできなかった。

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岩月クロ
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