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  <title type="text">Ｌｕｘｕａｌ</title>
  <subtitle type="html">生きたいと想って。生きたいと願って。だから生きているのだと思えるこの場所で――</subtitle>
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  <updated>2008-12-19T17:42:53+09:00</updated>
  <author><name>岩月クロ</name></author>
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    <published>2011-11-27T16:00:00+09:00</published> 
    <updated>2011-11-27T16:00:00+09:00</updated> 
    <category term="Ｂｌａｃｋ Ｓｋｙ ＆ Ｗｈｉｔｅ Ｍｏｏｎ" label="Ｂｌａｃｋ Ｓｋｙ ＆ Ｗｈｉｔｅ Ｍｏｏｎ" />
    <title>ＢＳ＆ＷＭ　079</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<p style="line-height: 200%">
	<font size="3"><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック">　手の先が、覚えのないものに触れ、一瞬止まる。<br />
	「&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;」<br />
	　意外と、慣れないものだと思う。<br />
	　手に持った時には、妙に昔から自分の元にコレが在ったように感じたのだが、実際のところやはり身体に染みついたものではないらしく、腰に手が向かう度に、普段とは違うソレに、指先が固まる。<br />
	「ツォンの剣」<br />
	　国宝である―――否、それ以上の価値があるこの剣が、今自分の腰にひっそりと存在しているという事実は、改めて見ると不思議だった。かの王曰く、「不思議でもなんでもなく、これは当然のこと」らしいのだが、&ldquo;当事者&rdquo;の自分にとって、やはり未だに夜伽の域を出ない。<br />
	　密かに現実味を帯び始めたのは、彼女が現れてからのことだ。<br />
	　カチリ、カチリ&hellip;と、あるべきものが、あるべきところへ納まるように。自身の居場所へ還っていくように。日ごとに噛み合わさっていく真実の欠片が決定的な形を見せたのは、おそらく妹姫の王位継承権の返還式。その一回目、だ。<br />
	　夢物語は、完全に現実と取って代わった。<br />
	　―――時はもう、すぐそこに迫っているんだよ、エイン。<br />
	　したり顔で告げた&ldquo;先代&rdquo;の言葉を思い出す。<br />
	　知ったことか、と思えるほど、自分は、この国も、民も、王族も、何も捨てられない性格のようだった。<br />
	　それでも。<br />
	　一番護りたいものが、その延長線上にあるのなら。<br />
	　踊ってやるしかないのだろう、この人形劇の舞台の上で。<br />
	　カタリ、と腰の剣が震えた。<br />
	　ひとつぽんと叩く。落ち着け。お前の出番はすぐだそうだが、今じゃない。<br />
	　全ては対の存在が現れ、白と黒が反転するその時に―――。<br />
	<br />
	<br />
	「エイン兄！」<br />
	　す、と目を開く。<br />
	　穏やかな日差しが、窓から差し込んでいる。<br />
	　エインレールは首を巡らせ、自分を呼び止めた声の主を視界に収める。弟の姿を認めたことで、ようやく自分が沈んだ思考からはい出たような気になった。<br />
	「ラード、どう、」<br />
	　そこで、そこが廊下であることを思い出す。視界の端には、弟以外の姿があった。寸でのところで頭を切り替えた。這い出た直後だったからか、どうも警戒が緩んでいる。この程度のことで、と言えるほどの余裕がまだないことは、自分がよく理解していた。<br />
	「どうしましたか、そんなに急いで」<br />
	「急がないと、エイン兄、いなくなってしまいそうだったから」<br />
	　そんな気がした、というのは彼の能力を知っている側からすれば、決定事項に近い。勘の鋭い――むしろ、予知能力と呼んで問題なさそうなほどの能力を持つランドリードは、そんなことはちっとも感じさせないほどに、にこりと笑った。<br />
	「何か用でも？」<br />
	「ん&hellip;特に無かったんだけど。強いて言うなら、見送り、かな」<br />
	「見送り？　それはありがたいですが、城を出発するのは、まだ先のはずですよ」<br />
	「先って言っても、もう五日もないよ」<br />
	　それにしたって、やはり早い気がするが。<br />
	　訝しんだエインレールに対し、ランドリードは今度は困ったように笑みを作る。<br />
	「ん～&hellip;見送りに間に合うか、わからない、から」<br />
	　その言葉は、どこか意外なように響いた。彼の勘が働かない部分だったのだろうか。<br />
	　かといってそれ以上追及する気もさらさら無く、エインレールは再び足を動かし始める。ランドリードはその隣に、当然のように並んだ。<br />
	「&hellip;父様から、引き継いだの？」<br />
	　その言葉に、「どうでしょうね」と返す。何のことですか、と誤魔化すことはしなかった。<br />
	　実際、引き継ぎは終わっていた。しかし、未だに漠然としたままだ。本当に、自分はあの役目を引き継ぐことができたのか。<br />
	「エイン兄なら大丈夫だよ。&hellip;これは僕の勘じゃあないけど」<br />
	　少しばかり申し訳なさそうな弟の姿に、フッと笑みを零す。<br />
	「それなら、尚更安心ですね。ありがとうございます、ラード」<br />
	　きっと彼は、なんのことだかもわかっていない。勘は、あくまで勘でしかないからだ。今日は雨が降る気がする、と思うことはできても、雨が降る理由はわからない。それでも彼は、兄を案じて駆けてきたのだろう。<br />
	　ふう&hellip;、とゆっくり息を吐く。<br />
	　彼女が月姫であることはわかった。それが何を意味するかも受け入れた。その彼女が何故、あの立場にいるのかはわかっていないが、それを知ることは、後でも構わない。それよりもまず、やるべきことがある。そのために、引き継いだ。今このタイミングで。<br />
	　不安がないと言えば嘘になる。万事が上手くいく保証はどこにもない。それでも、上手くいかせなければ、意味がない。<br />
	「エイン兄は、変わったね」<br />
	「変わった？」<br />
	　何を急に、と彼の顔をうかがう。ふわりと柔らかく笑った顔は、本当に嬉しそうだった。<br />
	「エイン兄は、いっつも僕らを見守ってくれていたけれど、自分が一番に前に出ることってなかったから」<br />
	　確かに、これほどまで前に立って物事に挑むことはなかったように思う。立場上、そう大々的に動けるものでもなかったし、上も下もいる身で、目立つことは避けたい。そもそも、目立つこと自体があまり好きではない性格も関係していたのだろうが。<br />
	「僕らはそれですごく安心できたけど、&hellip;でもエイン兄は時々、淋しそうだったから」<br />
	　そんな風に映っていたのだろうか。自分では決してそう思ったことはない。腹の探り合いばかりのこの世界を鬱陶しくは思っていたが、淋しいと感じたことはなかった。なんだかんだで構ってくるやつもいたし、馬が合い話す者もいた。深入りした関係には、なかなかならなかったが。<br />
	　あるいは、&ldquo;それ&rdquo;だろうか。<br />
	　誰からもひとつ距離を置き、心を許す者にも腹の底までは晒さない。それを淋しいと思わないその様を、彼は淋しいと感じたのか。<br />
	　無論、今だってそれは同じである。全てを共有している者など、どこにもいない。<br />
	　ただ、そうなってもいいかもしれない、と思う存在ができただけだ。<br />
	　思わず緩んだ思考に、不穏な発言が飛び込んだ。<br />
	「だからこの際、世界をぶっ壊すくらいの勢いで暴れてくるといいよ」<br />
	　ぎょっとして弟を見やれば、彼はさらっと続けた。<br />
	「って、ベルが言ってた」<br />
	　ランドリードの言葉ではない。少し考えればわかることであった。腰に手を当てながら不敵に笑う彼女の姿は、いとも容易く想像できた。<br />
	　ベルとは、彼の双子の姉であるベルフラウのことである。生まれつきの夢見の能力――いわゆる予知能力のおかげで、思い切り政治的厄介ごとに巻き込まれる難儀な運命――向こうも、エインレールに言われたくはないだろうが――の妹姫だ。<br />
	　自国の貴族に降嫁し、少しは落ち着いたかと思ったのだが、元来の性格上、じっとしていることはできないらしく、こうしてたまに、まるで近くで見ていたのではないかと思うほど正確に状況を把握した一報を寄こしてくる。状況把握の一端には、彼女の予知能力による効果があるのかもしれないが、この乱暴な発言自体は、確実に彼女が面白がって言ったものとしか思えない。<br />
	　第一、世界を壊してどうする。本末転倒だ。この場合は、特に。<br />
	　おそらくわかって言っているのであろうから、尚更性質（たち）が悪い。<br />
	「ベルはベルで、エイン兄のことを心配しているんだと思うよ」<br />
	「心配、ですか」<br />
	「うん、心配。素直になれないだけだって」<br />
	　とてもそうとは思えない内容だが。<br />
	「次に会う時には、その時の暴れっぷりをたっぷり語ってね、だって」<br />
	「&hellip;ご所望とあらば」<br />
	　ため息をひとつ。しょうがない妹だ、と思う。<br />
	「その時は、ぜひエイン兄のパートナーも一緒に、とも言ってたかな」<br />
	「それは丁重にお断りを入れておいてください」<br />
	　散々からかわれるとわかっていてハイと素直に頷くほど馬鹿ではない。<br />
	　それに。<br />
	「&hellip;&hellip;&hellip;彼女は全てが終わったら、自分があるべき場所に帰るそうです。だから、会えるとも限りませんよ」<br />
	「そうだとしても、諦める気なんて少しも無いでしょ？」<br />
	　間を空けた自分と違い、間髪容れずに切り返してきた言葉に、詰まる。<br />
	「パートナーって言葉で、迷わず一瞬で思い浮かべるくらいだもんね」<br />
	　はたと動きを止める。<br />
	「ね？」<br />
	　にっこりと、あくまで無邪気に笑う弟に、過剰に反応する気も失せた。<br />
	「そうですね&hellip;確かに」<br />
	　思い浮かべる。その姿を。<br />
	「みすみす手放すなんて選択肢、初めから消してる」<br />
	　嫌われるかもしれないと思っただけで動揺し、笑った顔に心が熱くなる。小さなことに一喜一憂する不安定さを、けれど手放すなんてできないだろうと思う。<br />
	　迷惑だと罵られたとて、もう引き下がることはできない。自覚した直後ならまだなんとかできたかもしれないが、今は無理だ。&hellip;そこはまあ、素直に謝ろう。謝るが、やっぱり引けない。厄介なやつに目を付けられたと思って、諦めてもらおう。<br />
	　ご愁傷様、とまるで他人事のように手を合わせる。<br />
	「アーシャさんも大変だ」<br />
	　こちらの考えを読んだかのように、ランドリードが静かに笑った。嫌味がないため、その言葉どおりの意味で響く。<br />
	　まったくだ、と心の中で賛同した。<br />
	　だから。<br />
	　頼むから、面白がって余計なことまでしてくれるなよ、とエインレールは脳内で、今頃にやにやと笑っているのであろう人物の顔を思い浮かべた。<br />
	　&hellip;いや、&ldquo;だからこそ&rdquo;、彼は面白がるに違いない。<br />
	「&hellip;エイン兄も大変だ」<br />
	　まったくだ、と再度、心の中で深く賛同した。</span></font><br />
	&nbsp;</p>
<p style="text-align: right; line-height: 200%">
	<font size="3"><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック"><font size="3"><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック"><font size="3"><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック"><span style="font-size: small"><span style="font-family: ｍｓ ｐゴシック"><font size="3"><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック">NEXT　/　<a href="http://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/Category/3/">MENU</a>　/　<a href="http://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/Category/3/94/">BACK</a>　---　<a href="http://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/">LUXUAL</a></span></font></span></span></span></font></span></font><br />
	<br />
	&nbsp;<br />
	&nbsp;</span></font></p>
]]> 
    </content>
    <author>
            <name>岩月クロ</name>
        </author>
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    <published>2011-11-04T22:04:42+09:00</published> 
    <updated>2011-11-04T22:04:42+09:00</updated> 
    <category term="Ｂｌａｃｋ Ｓｋｙ ＆ Ｗｈｉｔｅ Ｍｏｏｎ" label="Ｂｌａｃｋ Ｓｋｙ ＆ Ｗｈｉｔｅ Ｍｏｏｎ" />
    <title>ＢＳ＆ＷＭ　078</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<p style="line-height: 200%">
	<font size="3"><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック">　約束は、意外にもすぐに取り付けることができた。<br />
	　向こうとしても、事前に話しておかなければならないため、時間を取っていたのだろう。<br />
	　拍子抜け、という言葉が頭に浮かんだ次に、ゾクリと背筋が粟立った。<br />
	　本当に自分は、あの笑顔が苦手なのだ、と思う。読めない、というわけではない。何かよからぬことを考えている時の空気を読むくらいのことはできると自負している。いや、だからこそ、怖いのか。<br />
	　マーフィンという人物は、きっと、その&ldquo;よからぬこと&rdquo;を隠す気が無いから。<br />
	　&hellip;&hellip;&hellip;なんなのだろう、味方なのに、対峙する度に追いつめられているこの心境は。<br />
	　がっくりと肩を落としながら、トントンと扉を叩く。<br />
	　返事より先に、扉が開いた。<br />
	「どうぞ」<br />
	　ニコリと笑う顔に、ありがとうございます、と返して、部屋に入る。一歩後ろに、キントゥが続く。<br />
	　手に書類を持っているところを見ると、仕事中だったのだろうか。&hellip;無理もない。彼クラスとなれば、この時期、多忙でない方がおかしい。それにしたって、彼は他人にそれを見せつけるようなタイプでもない気がする。逆に言うと、それほど仕事に追われている状況なのだろうことがうかがえた。――と断言できるほど親しい仲でもないので、真相のほどは不明であるが。<br />
	「すみませんね、散らかっていて」<br />
	「お構いなく。&hellip;それに、そんなに散らかってもいないですよ」<br />
	　言って苦笑を浮かべる顔に、失礼かと思いながら部屋を見回す。机の上も、物こそ乗ってはいるが、綺麗に整頓されていて、散らかっている、とは真逆の印象しか受けない。そう感じるのは、もしかするとマティアやヒューガナイトの部屋を見慣れたおかげもあるのかもしれないが。<br />
	「どうぞ、こちらへ。&hellip;早速ですみませんが、話を始めても？」<br />
	「はい、お願いします」<br />
	　返せば、それでは、とマーフィンは遠慮も容赦もなく説明を始めた。<br />
	　彼の説明は、簡潔でわかりやすい。<br />
	　何時頃出立し、到着はいつ頃になるのか――あるいは、&ldquo;なるべき&rdquo;なのか。隊の編成、アーシャが就く場所、それから着いてからの動きを把握することができた。<br />
	「基本的には、ユリティア様と共に行動していただきます」<br />
	　護衛目的なのだから、それは当然のことである。表向きは侍女として従う形だ。キントゥもユリティアの侍女として動くことになるため、ユリティアの&ldquo;お世話&rdquo;をするのは、ソフィーネに、アーシャとキントゥの三人となる。<br />
	　ソフィーネは本来の仕事―ーつまりユリティアの侍女としての仕事を主に行う。アーシャは敵襲の際の護衛。キントゥはアーシャの補佐。といってももちろん襲撃に遭った時での補佐ではなく、侍女&rdquo;としてのアーシャを補佐する形だ。<br />
	　マーフィンはその際、キントゥに「人前ではアーシャ様のことは、様付けで呼ばないようにしてください」と釘を刺していた。なるほど、そのあたりの事情にも精通しているらしい。キントゥはガチガチの表情で、ハイッと元気よく返事をした。大丈夫だろうか。<br />
	　移動手段は、馬車となる。アーシャは、ユリティアの馬車のひとつ後ろに用意された馬車に乗り込む。<br />
	「馬車が襲撃される危険性は&hellip;」<br />
	「十分ありますね。ソフィーネ嬢が同乗するので、問題はないでしょう。ユリティア様の安全のために、最も冷静に、最も的確な判断を下せるのは、彼女でしょうから」<br />
	　確かに、彼女なら、敵と味方両者を斬り捨ててでも、ユリティアの安全だけは何がなんでも守るだろう。その光景はいとも簡単に想像できた。<br />
	「それに、彼女は多少の武術の心得がありますからね。少しの間なら持ちます」<br />
	「え&hellip;そうなんですか」<br />
	　初耳だった。キントゥも同じだったらしく、顔を見合わせてぱちくり目を瞬かせる。<br />
	　それから、豊満な体躯と妖艶な美貌を兼ね備えたソフィーネがなんらかの武器を振り回す姿を想像し、首を捻る。しっくりこない。浮かべる武器を間違えたのか。鞭とかなら似合いそうな気がする。そんな勝手なことを考えていると、マーフィンが「私も一度だけ見たことがありますが、あれなら大丈夫でしょう」と言い切った。彼が言うということは、それなりに形になっているのだろう。<br />
	「ともあれ、護衛の要は貴女ですからね。期待しています」<br />
	　ニコリ、と笑う顔に、なんとなく威圧感を覚えた。うっ、と詰まる。怖い。<br />
	「特に国外に出てからは、気を引き締めなくてはいけません。一気に手数が減りますからね」<br />
	「&hellip;それは、途中までマティアさんがついてくる、ということと関連していますか」<br />
	　そっと言葉を投げかければ、よくわかりましたね、とアーシャが知っていることについてはさして驚いた顔も見せずに笑みを深める。<br />
	「予防策です」<br />
	　マーフィンは言って、自分の指を二本立てる。<br />
	「まずもって護るべきは、ユリティア様に、クレイスラティ様」<br />
	　あの王様に護衛が必要かどうか、怪しいところがありますけどね。とマーフィンがサラリと言い放った。確かに、そんじょそこらの用心棒よりかはよっぽどが腕が立つだろうから、護衛がいても邪魔だと斬り捨てそうだ。何より彼には影が付いている。<br />
	「ただ、城には王家の者が他にもおりますから、城の警備も、警戒を怠るわけにはいきません。こちらはグリス隊長が先頭に立ちます」<br />
	　内容の割にマーフィンの顔に不安が一欠けらも見えないのは、彼の個性か、それともそれほどにグリスを信頼しているのか。<br />
	　そんなことを思いながら、それがどう先の話と繋がるのかを考えた。<br />
	　マーフィンはアーシャをうかがうように、その顔を見ている。<br />
	　これは応えないといけない。直感的に理解した。<br />
	　言葉を選んで、口を開く。<br />
	「第一に優先されるお二方とは別にもうひとつ、護衛&hellip;&hellip;&hellip;いえ、警戒、といった方が正確ですね。それをしておかなければいけないのが、ツベルの地、ということですか」<br />
	　途中まで手数が多く、国を出た途端に減るのであれば、それが適当だろう。ツベルの地が国境付近にある。それを超えた先が、リティアス王国だ。<br />
	「なぜ、そうする必要があるのでしょう」<br />
	「表向きは魔獣の動きが更に活発化したため」<br />
	　嘘ではない。キューちゃん――イオペガ種の伝鳥の名は、結局これに落ち着いた――を介した故郷とのやり取りから、現にここ数日、魔獣の出現、狂暴化の現象が起きていることは事実だ。アーシャの耳にも入るくらいなのだから、王の耳にももちろん入っていることだろう。<br />
	「裏の目的は、あたしの裏切り防止、ですね。ツベルの地に既にツォルヴェイン王国の兵がいる時点で、人質は確保されていますが、もしその状態でなお襲撃に遭った場合、あたしに迷う要素を与えないための策です」<br />
	　眉を寄せたのは、それを戦略とも優しさとも言い切れないもどかしさからだ。<br />
	　提案したのは、王か、&hellip;それともエインレールだろうか。<br />
	「そこに配置されるのが、マティアさん、ですか」<br />
	　なるほど。確かに自分が&ldquo;信頼&rdquo;を置いている人物だ。そう思っていれば、マーフィンはフッと笑った。<br />
	「&hellip;&hellip;&hellip;間違ってました？」<br />
	「いいえ。ただ、貴女は変に曲解して物事を捉える傾向がありますね。別にそれを悪いとは言いませんし、私自身&ldquo;そう&rdquo;ですが&hellip;」<br />
	　可笑しそうに、マーフィンは続ける。<br />
	「単純に、貴女に余計な心配をしてほしくないから、&hellip;安心させたいから、とは考えられませんか」<br />
	「それは、」<br />
	　目が泳ぐ。即答できない。<br />
	「その方が、喜ぶと思いますよ。&hellip;まあ、そうでなくても受け止めてしまう器ではありますが」<br />
	　―――誰のことを言ったのか、訊かずともわかる自分が憎い。<br />
	　途端にむず痒さが襲ってきて、居心地が悪くなる。<br />
	「&hellip;&hellip;&hellip;以上、ですか。お話」<br />
	「いえ、もう一点」<br />
	　さっさと話を畳んでしまおうと口にした言葉が、最終的に自分の首を絞めた。<br />
	「エインレール様も、当日、ツベルの地まで同行します。ツベルの地の警護の第一人者は、エインレール様ですからね」<br />
	　―――裏切らせないための努力は、最大限にするつもりだ。<br />
	　不意に、彼の言葉が蘇った。やけに鮮明に。<br />
	「&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;」<br />
	　無言になったアーシャを訝しんだキントゥがそっと主の顔をうかがった。根が素直すぎ、かつどちらかと言わずとも鈍感である彼女は、ソレをそのまま口にした。<br />
	「ど、どうかされたんですか、アーシャ様、お顔が真っ&hellip;―――あ、アーシャ様！？」<br />
	　立った拍子に大きく動いた椅子を、ありったけの矜持で丁寧に直し、そのまま逃げるように部屋を出る。――いや、実際逃げたのだが。<br />
	　まるで自分の侍女のどもり癖がうつったかのような口調で、なんとか礼の一言だけは述べた。<br />
	「し、失礼します！」<br />
	　キントゥが黙って、けれど雰囲気だけで「心配だ」と伝えていることを隠さないまま、自分の後ろをついてくる気配を感じる。<br />
	　その足跡が時折パタパタと駆けるようになるのに、部屋を出て数分経った頃、ようやく気付いた。足を動かすスピードを落とす。<br />
	　それでも、心臓がばくばくと波打っていることは、隠しようもなかった。<br />
	　部屋に入ったところで、キントゥに下がって欲しいと告げる。彼女は一瞬迷う素振りを見せたが、次にはペコリと一礼して部屋を後にした。―――そこでようやく崩れ落ちる。ふかふかのベッドは、アーシャの身体を柔らかく受け止めた。<br />
	　&hellip;&hellip;&hellip;自分はいったい、いつから。<br />
	　いつから、キントゥに――本来なら自分よりずっと上の身分である者に、「下がれ」などと命令口調でものを言えるようになったのか。<br />
	　苦し紛れに、そんなことを考えた。けれど結局はその思考の先にも――きっとソレでなくたって、今自分が持つどんな話題の先にだって、彼がいることに気付き、考えること自体を放棄した。<br />
	　―――ツベルの地を警護する、その第一人者が、エインレールであるという。<br />
	　その事実が、自分にひたすらの安堵感をもたらすなんて。<br />
	　彼は、知っていてそれをしたのか。それとも、言ったからには自分が、とでも思ったのか。<br />
	　目を閉じる。<br />
	　考えることは、先程放棄した。だからこの先も、考えない。考えたりできない。<br />
	<br />
	　だけれども、ひとつだけ本音を零すなら。<br />
	<br />
	「&hellip;&hellip;&hellip;エインでよかった」<br />
	　放ったぽつりとした言葉が、広く静かな部屋に響く様を、黙って見ていた。</span></font><br />
	&nbsp;</p>
<p style="text-align: right; line-height: 200%">
	<font size="3"><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック"><font size="3"><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック"><span style="font-size: small"><span style="font-family: ｍｓ ｐゴシック"><font size="3"><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック"><a href="http://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/Category/3/95/">NEXT</a>　/　<a href="http://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/Category/3/">MENU</a>　/　<a href="http://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/Category/3/93/">BACK</a>　---　<a href="http://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/">LUXUAL</a></span></font></span></span></span></font></span></font><br />
	<br />
	&nbsp;<br />
	&nbsp;</p>
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            <name>岩月クロ</name>
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    <published>2011-10-08T19:15:00+09:00</published> 
    <updated>2011-10-08T19:15:00+09:00</updated> 
    <category term="Ｂｌａｃｋ Ｓｋｙ ＆ Ｗｈｉｔｅ Ｍｏｏｎ" label="Ｂｌａｃｋ Ｓｋｙ ＆ Ｗｈｉｔｅ Ｍｏｏｎ" />
    <title>ＢＳ＆ＷＭ　077</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<p style="line-height: 200%">
	<font size="3"><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック">「マティアさん、アーシャです。入りますよ」<br />
	　一言声を掛けてから、ドアに手を掛ける。返事を待っていたらいつまで経ってもドアが開かないことは、既に経験として、アーシャの中にある。<br />
	　開けた瞬間、目前にぬっと人の顔。<br />
	「ひゃっ&hellip;」<br />
	　思わず小さく悲鳴を上げると、目の前に迫っていた顔が、スッと引いた。<br />
	「ああ、アーシャさんではないですか～」<br />
	「ひゅ、ヒューガ&hellip;さん」<br />
	　いつもどおり青白い、不健康そうな顔をしたヒューガナイトが、いつものように、ガクンと首を傾ける。彼曰くの、&ldquo;首を傾げる&rdquo;動作である。そのまま、へらりと笑う。<br />
	「どうしたんですかぁ。僕に何か、御用でも～？」<br />
	「ヒューガさんとも、久しぶりにお話したいですけど、ここにはマティアさんに呼ばれてきたんです」<br />
	「あぁ、そうでしたかぁ」<br />
	　へらへら。笑顔を崩すことないまま言うヒューガナイトに、アーシャは、部屋の隅に置かれた長椅子を指差した。物が乗っているが、他のところと比べると、使えないことはない。<br />
	「ヒューガさんは、とりあえず、休んでおいてください」<br />
	「ええぇ」<br />
	　不満げなヒューガナイトに、アーシャはふっと笑い掛ける。<br />
	「本当は、休憩室に行ってほしいくらいですけど、&hellip;ヒューガさん、これは最大の譲歩、ですよ？」<br />
	「でもですねえ、僕まだやることが、」<br />
	「あらかた終わらせたろう、いい加減休め、ヒュー」<br />
	　奥から、すらっとした金髪美人が現れる。間違いない、マティアその人だ。長い金髪は、無造作にひとつに束ねてある。それを片手で解くと、彼女はフウと一息吐いた。<br />
	　片手で自身の髪を掻き上げると、ぎろりとヒューガナイトを睨む。<br />
	「それとも、今さっきのことすら忘れたか」<br />
	「そんなことはないですけどぉ」<br />
	「ならとっとと寝ろ。そこでいい」<br />
	　&ldquo;そこ&rdquo;と、顎で、先程アーシャが示した長椅子を、指し示す。「なんだったら強制的に眠らせるけど、それでもいいのか」と凄んだマティアに、キントゥが怯えたように身を竦める。しかし当の本人は全く意に介した様子はなく、それでも圧力に負けてか、渋々長椅子に身を沈めた。次の瞬間には、静かな寝息が聞こえる。<br />
	「&hellip;寝付き、早いんですね」<br />
	「ああ、ついでに大抵の物音じゃ、目を覚まさない。次に目を覚ますのは、いったいいつになるやら」<br />
	　極端なんだ、とマティアは渋面を作っている。<br />
	　確かに、前に倒れるまで寝ずに研究をし続けた、という話を聞いた。それと合わせると、&ldquo;極端&rdquo;というのはぴったりだ。規則正しく、一日の間に起きて寝てを繰り返せばいいのに。<br />
	　マティアは近くから手早く毛布を発掘すると、それをヒューガナイトに掛けた。顔を隠さないように、けれども肩や首は隠すように。とても丁寧に。―――おそらくそこまで細心の注意を払わなければ、彼なら窒息死しかねないのだろう。ヒューガナイトという人は、自分に向ける愛情が決定的に足りていない気がする。<br />
	「さて、すまないが、椅子はこの通り占拠されてしまったから、奥で話そう」<br />
	　マティアは苦笑を浮かべながら言うと、部屋の奥を示す。物が散乱しているそこに、本当に大丈夫なのかと視線を送ると、「一応人が三人入れる空間はある」と返答があった。大丈夫なのか、大丈夫ではないのか、微妙なところだ。<br />
	「なに、そう長く話をするつもりはない。珈琲と茶、どっちがいい」<br />
	「お構いなく」<br />
	　今しがたまでユリティアのところにいたおかげで、喉の渇きはない。むしろ、紅茶を嗜んでいたおかげで、お腹に水分が有り余っているのを感じられるほどだ。<br />
	「あんたは？」<br />
	「あ、わ、わわわ私も！　お気遣いだけ、ありがたく頂きます」<br />
	　ぴしんっ、と背筋を伸ばしたキントゥに、マティアはフッと笑みを零すと、自分の分の珈琲だけ注（つ）ぐ。<br />
	　大きな欠伸を手で覆いながら、物が折り重なった机に備え付けられている椅子に腰を下ろす。奇跡的に、それは無事のようだ。<br />
	「えーと、&hellip;椅子を持ってきますね。――いえ、自分で持ってきます」<br />
	　確か長椅子の近くに、数個転がっていたはずだ。記憶を引っ張り出して、そこに向かう。腰を上げようとしたマティアを止めたのは、単に彼女がひどく気怠けだったからだ。その前の会話から察するに、相当溜まっていた仕事を片付けていたことがうかがえる。ヒューガナイトに休めと言ったが、彼女自身もそろそろ休むべきである。<br />
	　結局ついてきたキントゥと、二人分の椅子を運び、座る。キントゥが必死に辞退しようとしていたのを宥めたことは、もはや日常茶飯事のことなので、割愛。それにしても、座り心地はなかなかのものだ。<br />
	「それで、話というのは&hellip;」<br />
	「えらく急（せ）いて訊いてくれるな」<br />
	　早速話し始めたアーシャを諌めるように、マティアが笑う。いささか性急が過ぎたか。反省の色を見せたアーシャに、マティアは「まあ、無駄に話をするために呼んだわけじゃないからな」と一言。<br />
	「その流れに乗って、進めてしまうか。お前を今日呼んだのは、これを返すためだ」<br />
	　言うなり、アーシャに&ldquo;それ&rdquo;を投げて寄こす。チャリン、と小気味のいい金属音を立ててアーシャの手に乗ったのは、十字型のペンダント。―――アーシャの家の、家宝である、それだ。<br />
	　研究のために、マティアに預けたままとなっていた代物だ。<br />
	　アーシャは、マティアの顔をうかがう。<br />
	「もう、研究はいいんですか」<br />
	「正直まだわからないこともある。研究材料としては逸品だ。手放すのは惜しいよ」<br />
	　からからと笑いながら、あっけらかんと未練を口にする。<br />
	「だがソレの最大の価値は、お前が手にしていてこそ、だからな。ユリティア様の出立も近い。最悪、それを使う事態も起こるかもしれない。それまでに、その剣にも慣れておくべきだろう」<br />
	　アーシャ以外の手では決して剣の形を成さなかった、強情なそれを見やってから、マティアは「だから、今回お前を呼んだ最大の理由は、それを返すことだ」と続けた。<br />
	「&hellip;わかりました。残りは、こちらの剣を使っての実戦も組み込みます」<br />
	「また鼠に入り込まれていることは無いと思うが、油断はするなよ」<br />
	　奥の手は、奥の手としてあってこそ、意味を成すものである。そのため、なるべく人に知られるのは避けたい。アーシャはその言葉に首肯でもって応えた。<br />
	「&hellip;本当は、もっと早くに返して、時間を取ることができればよかったんだが」<br />
	「大丈夫です」<br />
	　はっきり言って、笑う。<br />
	「―――小さい頃から、ずっと一緒だったから」<br />
	　不思議な光を携えた言葉に、マティアは思わず押し黙った。やがて、そうか、と一言だけ零す。<br />
	「&hellip;後は、護衛の簡単の流れについて&hellip;&hellip;&hellip;は、また今度でいいか。私から聴くより、マーフィン殿から聴いた方が正確だろうしな」<br />
	　マーフィン。穏やかな笑みを浮かべながら、その実、その顔で人を脅すことのできる、器用な人物であり、また今回ユリティアの警護を勤める第二騎士隊の隊長である。確かに彼から直接話を聞いた方が、確実であろう。<br />
	　それに、マティアはやはり、疲れている。顔からうかがえる、疲労の色が非常に濃いのは、決して見間違えではない。<br />
	―――あのクセのある笑みは、正直アーシャの苦手とするところであるが。そこは我慢するべきところだ。<br />
	「話は以上ですか。なら、あたしはこれで失礼します。―――ヒューガさんもそうですけど、マティアさんも、お身体は大切にしてください」<br />
	「違いないな。部下にあれだけ言っておいて、自分が倒れたんじゃ、様はない」<br />
	　肩を竦めたマティアは、「ありがたくお言葉に甘えることにするよ」と言いながら、残りの珈琲を呷った。<br />
	「それじゃ、&hellip;その時になって言えなかったら嫌なので、先にお伝えしておきます。―――いろいろ、お世話になりました。魔法が技術がここまで形になったのも、マティアさんのおかげです」<br />
	「なんだ、改まって。それじゃまるで、今生の別れみたいだぞ」<br />
	「似たようなものでしょう」<br />
	　さらりと告げた言葉に、マティアはきょとりと目を瞬かせる。<br />
	「&hellip;&hellip;&hellip;。ああ、先にこれだけは言っておくがな。当日、途中までは同行することになるだろう」<br />
	「&hellip;&hellip;&hellip;そうなんですか」<br />
	　早まったか。まあでも、その時にドタバタして言えない可能性もある。それなら、それで。<br />
	　それにしても、途中まで、とはどういうことか。怪訝そうな視線を寄こしたアーシャに、マティアは手をひらひら振った。<br />
	「それも含めて、マーフィン殿から話があるだろう。安心しろ、お前にとって悪い話ではない。&hellip;いい話でもないかもしれないが」<br />
	　意味深なことをサラッと言ってのける。彼女が言うと、興味が無さそうに言う分、余計にいいのか悪いのか、分からない。<br />
	　それも彼が話してくれるというのなら、それでいいだろう。キントゥを遣いにやって、約束を取り付ける必要があるので、解決までに時間は空いてしまう可能性は多分に考えられるが。<br />
	「&hellip;失礼します」<br />
	　一礼してから、下がる。ソファーに横たわるヒューガナイトにも一声掛けるべきか悩んだが、どうせ掛けたところで、返事があるわけでもない。彼は眠りが深いそうだが、万一起こしてしまっては、大変だ――なにせ、彼にとっての睡眠は、ある意味他人にとって、とても貴重なものであるから――というわけで、静かに目礼だけして、立ち去ることにした。</span></font><br />
	<br />
	<br />
	<font size="3"><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック">　パタン、と。<br />
	　部屋にいる人間に気を遣ってか、静かに閉まった扉を見つめながら、マティアはクスリと笑った。<br />
	　―――似たようなものでしょう<br />
	　彼女はそう言った。言った理由は想像がつく。<br />
	　以前彼女から感じた威圧感を、我が王のソレと思ったことがある。確かに、あの二人には似た空気を感じる。それはなにも、自分に限ったことではないだろう。<br />
	　―――けれど、彼女は&ldquo;まだまだ&rdquo;だ。<br />
	　無理からぬことである。彼女はまだ、齢十七だ。自分が一瞬でも臆したとはいえ、まだ子供だ。<br />
	　それに彼女は、自国の王について、まだ知らないことが多すぎる。<br />
	「まったく&hellip;&hellip;&hellip;我らが王が、そう簡単に貴重な人材を手放すわけがなかろうに」<br />
	　約束は約束。彼はおそらくなんらかの形で果たすはずだ。果たした上で、まだなお自身の駒として動かせる位置に彼女を置こうとするだろう。<br />
	　彼女の力は、強大である。それに彼女は―――でもある。</span></font><br />
	<br />
	<font size="3"><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック">　彼女がその事実に気付いた時に、いったいどういった反応を示すか。<br />
	　その姿に、自分は何を感じるか。</span></font><br />
	<br />
	<font size="3"><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック">　今はまだ、想像できないでいた。<br />
	　けれど。<br />
	　答えはもう、すぐそこに。近寄ってきているのだ、こうしている間にも。それは確実に、訪れる。<br />
	　自分の中で答えが出ないとしても、どの道それを知る日はそう遠くない。</span></font><br />
	<br />
	<font size="3"><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック">　すう、と目を閉じる。<br />
	　疲れた身体を、柔らかな椅子に静めると、睡魔はすぐに襲ってきた。</span></font><br />
	&nbsp;</p>
<p style="text-align: right; line-height: 200%">
	<font size="3"><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック"><font size="3"><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック"><span style="font-size: small"><span style="font-family: ｍｓ ｐゴシック"><font size="3"><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック"><a href="http://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/Category/3/94/">NEXT</a>　/　<a href="http://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/Category/3/">MENU</a>　/　<a href="http://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/Category/3/92/">BACK</a>　---　<a href="http://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/">LUXUAL</a></span></font></span></span></span></font></span></font><br />
	<br />
	<br />
	&nbsp;</p>
]]> 
    </content>
    <author>
            <name>岩月クロ</name>
        </author>
  </entry>
  <entry>
    <id>iwa3ruxual.blog.shinobi.jp://entry/198</id>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="https://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/%EF%BD%82%EF%BD%8C%EF%BD%81%EF%BD%83%EF%BD%8B%20%EF%BD%93%EF%BD%8B%EF%BD%99%20%EF%BC%86%20%EF%BD%97%EF%BD%88%EF%BD%89%EF%BD%94%EF%BD%85%20%EF%BD%8D%EF%BD%8F%EF%BD%8F%EF%BD%8E/%EF%BD%82%EF%BD%93%EF%BC%86%EF%BD%97%EF%BD%8D%E3%80%80076" />
    <published>2011-10-01T18:43:03+09:00</published> 
    <updated>2011-10-01T18:43:03+09:00</updated> 
    <category term="Ｂｌａｃｋ Ｓｋｙ ＆ Ｗｈｉｔｅ Ｍｏｏｎ" label="Ｂｌａｃｋ Ｓｋｙ ＆ Ｗｈｉｔｅ Ｍｏｏｎ" />
    <title>ＢＳ＆ＷＭ　076</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<p style="line-height: 200%">
	<font size="3"><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック">　二度目の返還式は、無事に行われた。<br />
	　アーシャに集まった視線には、前に向けられた値踏みするような視線ではない。好意的なものと、明らかに敵意を含むもの。それから媚を売るようなものに、観察するもの。大きく分けてその四つだ。一つ目が明らかに少なく、あとの三つはちょうど同数程度だろうか。<br />
	　気にするものか、とアーシャは胸を張った。前回は後ろめたさがあったが、少なくとも今は、この国に牙を剥く存在ではないと、誇れる。<br />
	　参列者の中に、クリスティーの姿があり、その明るく勝気な表情から、ああ元気になったのだな、と思う。そういえば、初日以降、彼女自身には会っていないのだ。彼女はアーシャの視線に気付き、にこりと可愛らしく笑った。引っ掛かりは、もう感じなかった。<br />
	　その近くに、エインレールもまた立っている。彼はアーシャが目を向けるよりも先にこちらを見ていたらしく、すぐに目が合った。優しく細まった瞳に安心感を覚える。―――それから、胸の高鳴りも。<br />
	　ある瞬間から、自分は少し変だ。<br />
	　彼が無事に目を覚まして、心の底からほっとした瞬間から、何かが変だ。<br />
	　癖なのか、よく頭を叩いたり撫でたりするその行為が、まるで子供にやるようだから嫌いだったのに、その温かさに少し安心するようになった。そのくせ、どことなく落ち着かなくて気恥ずかしい。<br />
	　視線が絡まったって、それは当然のことでどうということもないものだったのに、今はこんなにも嬉しい。<br />
	　自分はあの日から、何かが少し変なままだ。<br />
	　アーシャはその感覚を、知っていた。いつか、自分が別の誰かに抱いた想いと似ていた。その時のそれは、恋だった。ではこれはなんだろう。同じものだと認めることを、今はまだできない。だから目を瞑る。放っておいても、いつか直視することができよう。それは今早急に答えを出すべきことではない。<br />
	　たとえ、目の前の彼女を送り届けた後、この関係が終わるとしても。<br />
	　それでも今は、まだ、いい。<br />
	　今ではいけないのだ。と何かが告げている。今はまだ足りないから、いけないのだ。<br />
	　だからこのままで。<br />
	　意識がスッと闇に沈む。気付けば、返還式は終わっていて、目の前には紅茶があり、自分はその前に据えられた椅子に腰を下ろしていた。前には華美なドレスから簡素な部屋着のドレスに着替えたユリティアが、にこにこと笑いながら紅茶を嗜んでいる。<br />
	「&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;」<br />
	「アーシャさん、どうしたのですか？」<br />
	　ぼんやりとしたアーシャに気付き、ユリティアが小首を傾げた。お疲れでしょうか、と心配げに問う彼女に、アーシャは慌てて首を振った。<br />
	「ち、違う。ただちょっと&hellip;天気がよかったから、ぼうっとしちゃった。ごめんね」<br />
	「そうでしたか。確かに、お天気がとてもいいですものね。ぽかぽかで、眠たくなってしまいます」<br />
	「そんなユリティア様も可愛らしいですわ」<br />
	「そ、ソフィーネ！　あああ貴女は少しは自重してくださいっ！」<br />
	　侍女同士のやり取りも、いつもどおりだ。<br />
	　ふっと笑みを浮かべ、そういえば、とアーシャはユリティアに向き直った。<br />
	「一週間後だっけ、出立は」<br />
	「はい。しばらくはこちらに戻ってこられませんから、寂しいです」<br />
	　にこにこ笑顔で言われて、いったいどの程度本気なのか、わからない。いや、彼女が本心からそう言っていることはわかるのだが。<br />
	「アーシャさんとも、あちらに着いたら、なかなか会えなくなってしまいますね」<br />
	　それも哀しいです。にゅう、と眉尻を下げたユリティアの言葉に、アーシャは少しの間、黙った。<br />
	　自分は、彼女の親兄弟とは勝手が違う。&ldquo;なかなか会えない&rdquo;？　一生会えなくたって、おかしくないのだ。<br />
	　それは確かに、哀しいなと思う。だからこそ、また会えるよ、とは軽々しく言えなかった。<br />
	　ユリティアはしばらくの間心痛そうな顔をしていたが、すうっと胸の前で手を組んで、いつもどおり朗らかに笑った。<br />
	「ですから私、アーシャさんがエインのお兄様とご結婚されることを、心待ちにしております。式典にはぜひ招待してくださいませね」<br />
	「し&hellip;！」<br />
	　しない、と声を荒げようと思ったが、ユリティアがあまりにも嬉しそうだったので、口を噤んだ。後ろのソフィーネの圧力によるところも、無きにしも非ずであったが。<br />
	「ねえアーシャさん」<br />
	　ユリティアの瞳がきらきらと輝いている。<br />
	「エインのお兄様の、どこを好いておられるのですか」<br />
	「ど、どこって&hellip;」<br />
	　そもそもあたしは別にそんなんじゃない、いや嫌いかと問われたらそうでないと答えるけどだからってそういうことではなくて。心の中で存分に反論してから、諦めて口を開く。別に、恋愛感情云々関係なく、彼の好ましいと思う部分を口にすればいいだけの話だ。しかしいざ言葉にしようとしたら、困ってしまった。<br />
	　エインレールの、好きなところ。<br />
	　口を開けたまま、結局一言も言葉を発せられない。不思議そうに目を瞬かせるユリティアに、苦笑を返した。<br />
	「&hellip;改めて考えると、わからないかも。でも、感謝してる。&hellip;本当に、とても」<br />
	　彼が自分に手を差し伸べてくれたこと。彼と出会えたこと自体にも。全てに。<br />
	　きっと自分はいつの間にか、彼という存在に救われていたのだと思う。この場において、自分はきっと、だから、彼を信頼している。<br />
	「素敵ですね」<br />
	　ユリティアが嬉しそうに頬を染めた。<br />
	　あくまで今は仲間としてなのだけれど、とは心中に留めておく。他の誰かならまだしも、ユリティアにこんなに嬉しそうな顔をされたら、水を差すことはできなかった。<br />
	　それでもこのままこの話題で話を進めることはできなかった。アーシャは返還式で見かけた少女のことを訊ねる。<br />
	「クリスティーさ&hellip;ん、の容態はどうなんですか？　お昼に見掛けた時には元気そうでしたけど」<br />
	　敬称を無理に親しげに変えたのは、そうすると何故かユリティアが悲しむだろうということがわかったのと、それを知っているソフィーネが先程とは比にならない笑顔の圧力を掛けてきたからに他ならない。<br />
	「はい。もうすっかりよくなりました」<br />
	　ユリティアはそんな周囲の考えには一切気付いた様子もなく、嬉しそうに語る。<br />
	「この前なんて、お医者様も追い返そうとしてしまうくらいでした。クリスティーはお医者様が好きではないのです。何故かしら？」<br />
	「きっと注射が怖いからですわよ」<br />
	　ソフィーネが適当なことを言う。あまりにも自信満々なものだから、アーシャも思わず信じかけたが、いやいやまさか、と思い直す。<br />
	「でもまだ安静にしていなくてはいけないそうです。本調子ではありませんから。あまり部屋から出ないようにと言われたそうです」<br />
	　それは、健康状態以外での意図も含められているのではなかろうか。エインレールと共に、偽物の彼女を見た時のことを思い出す。確か、脱走がどうのこうのと話していた。<br />
	　ベッドで一日過ごすというのは、確かに退屈そうなので、仕方ないかもしれないけれど。アーシャは自分の行動に当てはめて結論づけた。自分でも、まず間違いなく脱走を図るだろう。ああ、もしかして医者が嫌いなのも、そこが絡んでくるのだろうか。嫌いというより、脱走を図るには邪魔だ。定期的に来られでもしたら、脱走したことがすぐにバレてしまう。<br />
	　そんなことを考えながら、アーシャはユリティアに笑い掛けた。<br />
	「見送りの日までには許可が出ているといいね」<br />
	「はい！　別れ際にも、ぜひお話したいですもの」<br />
	　別れ、か。<br />
	　自分はなんにせよ、一度ツォルヴェインの城に戻ってくることになるだろう。すぐにここに出ることになるとしても、一応世話になった者に礼は言っておきたい。<br />
	　―――未練は、それだけのはずだ。<br />
	　目を閉じ、ゆっくり息を吐く。<br />
	「それじゃあ、あたしはそろそろお暇するね。マティアさんに呼ばれてるの」<br />
	「この時間から練習ですか？」<br />
	　ユリティアの眉が八の字になるのを見て、アーシャは慌てて頭と両手を横に振り、否定する。<br />
	「練習ではないんだけど、話があるんだって」<br />
	「そうなんですか。でしたら、お待たせしては申し訳ないですね」<br />
	　言いつつも、少し名残惜しそうではある。<br />
	「見送ります」<br />
	　優美な動作で椅子から立ち上がったユリティアに、いいのに、とアーシャはますます慌てた。<br />
	「見送らせてください。扉の前まででいいので」<br />
	　どこか必死な形相のユリティアに、思わず頷けば、ぱっと花が咲くような笑顔が浮かぶ。<br />
	　そんな彼女と、彼女の付き人に見送られ、やがて角を曲がり彼女たちの姿が見えなくなったところで、アーシャは口を開いた。<br />
	「やっぱり、不安なんだよね&hellip;」<br />
	　いくらいつも明るく、朗らかに見えたとて。一切不安を感じていない人間など、いやしない。まして自分が狙われる身となれば、尚更だ。<br />
	　キントゥも沈痛な面持ちで同意した。<br />
	「まだ15歳でいらっしゃいますもの」<br />
	「&hellip;&hellip;&hellip;キントゥ、貴女は？」<br />
	　へ、と顔を上げたキントゥが、不思議そうに目を瞬かせる。アーシャは、歩きながら彼女を横目で見る。<br />
	「あたしはユリティアの警護のために、リティアスまで着いていく」<br />
	「存じております」<br />
	　キントゥは頷いて、それから更に口を開こうとしたアーシャを制し、言い切る。<br />
	「私はアーシャ様の侍女ですもの。着いていきますわ」<br />
	　ここに残ってもいいんだよ、と続けるはずだった言葉が、その強さに封じ込められる。<br />
	「お城に残っていた方が安全だよ。どの道あたしは、&hellip;ユリティアの件が落ち着いたら、この城から出ていく予定なんだから」<br />
	「なら、私はそこにも着いていきます。アーシャ様に仕えると決めたのですから」<br />
	　意外と強情だ。アーシャは眉を寄せた。普段、特にソフィーネにからかわれている時はあんなにおどおどしているくせに。<br />
	「キントゥ、私は貴女はここに残るべきだと思う」<br />
	　ツベルの地は、田舎だ。キントゥは見るからに、いいとこで育ったお嬢様だろう。とてもじゃないが、あの環境に耐えていけるとは思わない。それに彼女には、わざわざそういった生活に付き合う義務もない。<br />
	　キントゥは、ぴたりと足を止めた。<br />
	「わ、わたしは&hellip;」<br />
	　数歩。進んだところで、振り返る。彼女は俯いて、けれど視線だけは時折こちらをうかがっている。<br />
	「私は、そこでは、アーシャ様のお力にはなれませんか？」<br />
	　その問いに、本気の色を感じた。アーシャは一拍間を空けてから、応える。<br />
	「うん、なれない」<br />
	「&hellip;&hellip;&hellip;わかりました」<br />
	　キントゥは、ぐっと唇を噛みしめた。それからふっと笑う。<br />
	「で&hellip;でもアーシャ様がリティアスからここに戻るまでは、私の主はアーシャ様です。精一杯、お仕えします」<br />
	　泣きそうな顔に、アーシャは、うん、と小さく頷いた。ありがとう、と。口にするにはあまりに手前勝手である気がして、結局言えずじまいだ。<br />
	　自分は。<br />
	　もっと簡単に、もっと単純に、ここから離れていける予定だった。<br />
	　いけるものだと、思っていた。<br />
	　すう、と目を閉じる。浮かぶ顔に、苦い笑いがこみ上げる。<br />
	　自分の中に、彼らの存在があるように。存外、彼らの中にも自分は大なり小なり、根付いてしまっていたのかもしれない。<br />
	　それは時として嬉しいもので、時としてひどく残酷なものなのだと、知った。<br />
	（&hellip;&hellip;&hellip;きつい、な）<br />
	　あと何度、これを繰り返すだろう。<br />
	　その度に、自分は揺れる。それでも最終的に選ぶのは、自らが育ったあの地だ。<br />
	　浮かんだ顔の最後に、一番初めに自分に手を差し伸べた青年の顔が映る。<br />
	　抱く想いを、あえて定めぬ想いを、向ける相手の顔が。<br />
	<br />
	　―――その揺れに耐えるのは、おそらく最もきついだろう。</span></font></p>
<p style="text-align: right; line-height: 200%">
	<font size="3"><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック"><span style="font-size: small"><span style="font-family: ｍｓ ｐゴシック"><font size="3"><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック"><a href="http://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/Category/3/93/">NEXT</a>　/　<a href="http://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/Category/3/">MENU</a>　/　<a href="http://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/Category/3/91/">BACK</a>　---　<a href="http://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/">LUXUAL</a></span></font></span></span></span></font></p>
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    <author>
            <name>岩月クロ</name>
        </author>
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    <id>iwa3ruxual.blog.shinobi.jp://entry/197</id>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="https://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/%EF%BD%82%EF%BD%8C%EF%BD%81%EF%BD%83%EF%BD%8B%20%EF%BD%93%EF%BD%8B%EF%BD%99%20%EF%BC%86%20%EF%BD%97%EF%BD%88%EF%BD%89%EF%BD%94%EF%BD%85%20%EF%BD%8D%EF%BD%8F%EF%BD%8F%EF%BD%8E/%EF%BD%82%EF%BD%93%EF%BC%86%EF%BD%97%EF%BD%8D%E3%80%80075" />
    <published>2011-09-03T06:00:00+09:00</published> 
    <updated>2011-09-03T06:00:00+09:00</updated> 
    <category term="Ｂｌａｃｋ Ｓｋｙ ＆ Ｗｈｉｔｅ Ｍｏｏｎ" label="Ｂｌａｃｋ Ｓｋｙ ＆ Ｗｈｉｔｅ Ｍｏｏｎ" />
    <title>ＢＳ＆ＷＭ　075</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<p style="line-height: 200%">
	<font size="3"><span style="font-family: ｍｓ ｐゴシック">「昨日、&ldquo;収穫があった&rdquo;とアーシャから聞きましたが、どういった内容ですか」<br />
	「昨日&hellip;ああそうだ、昨日は二人とも、すごく&ldquo;仲がよかった&rdquo;みたいだね。エイン君の私室だから、他の誰かが部屋に入るなんて野暮もないだろうし」<br />
	「そんなに締められたいのか&hellip;？」<br />
	　余所行きの笑顔のまま、相手の胸倉を掴む。<br />
	「じょ、冗談！　ジョーダンだよエイン君。だから、ね？　そんなに怒らないでよー。眉間にしわが寄ってるよ？」<br />
	「誰の所為だっ！」<br />
	「うーん、僕かなあ」<br />
	「あんた以外の誰がいると！？」<br />
	　えへ、と歳には似合わないが彼がやると不自然ではない茶目っ気のある笑顔を浮かべた父を前に、がっくりと肩を落とす。ふと気になってアーシャを見れば、少しばかり頬が蒸気している。それを見ていると、何故だか自分まで気恥ずかしくなってくる。再度視線を逸らせば、にやにやと自分を見つめる父の姿が映った。<br />
	「っ、&hellip;収穫、とは？」<br />
	　胸倉を掴んでいた手を離し、一歩下がってから訊ねる。思わず出かける素の口調を、押し殺した。<br />
	　クレイスラティは「仕方がないから話を進めてあげよう」という余裕のにじみ出た表情を浮かべて――そこでますます腹が立ったのは言うまでもないが、再び同じことを繰り返さなかったのは、これ以上相手にからかいのネタを与えたくなかったからに他ならない――から、口を開いた。<br />
	「先の件での敵方の&ldquo;駒&rdquo;、片方は魔族だった」<br />
	「魔族って&hellip;ほ、本当にいるんですね」<br />
	　驚いたように目を見開いたアーシャを、エインレールが一瞥する。<br />
	「確かに魔獣に比べると、人の前に現れることはずっと少ないです。しかし、魔族の存在は歴史の節目節目に在るため、国が保有する歴史書には、彼らの存在は決して異例ではありません。&hellip;今が、その歴史の節目であるのかどうかは、私には判断しかねますが」<br />
	　そうなんだ&hellip;、とアーシャは驚きを隠せないまま、続ける。<br />
	「じゃあ、一般でいうところの魔族と、専門分野での魔族って、少しニュアンスが違うんですね。あたしにとって魔族はあくまで、お伽話レベルの存在でした」<br />
	「歴史の節目なんてそうそう滅多にあるものではありませんし――むしろ、そんな頻繁に起こるようでは困りますから、その解釈でも問題ないと思いますよ」<br />
	　それに、魔法を知らない者と、専門的に習っている者で認識が違うのは、当然のことだ。魔法に限らず。<br />
	「んー。じゃあ、専門的には、魔族ってどんな存在なんですか？」<br />
	　不思議そうなアーシャに、クレイスラティがおかしそうに答える。<br />
	「曖昧な質問だね。善悪を問うているのなら、それに解はない、と答えざるを得ないな。彼らは善でも悪でもない。いや、善でもあり悪でもある、がより正確かな。―――なにもそれは、魔族に限ったことではないと思うけど。あくまで、彼らがより顕著にそれを表す、というだけであって」<br />
	「魔族の認識、という意味でしたら、魔学の教本では、『明確な意思・知性を持つもの』となっていますね。それ以外の説ですと、『人型をとっているもの』というものがあります」<br />
	「魔学&hellip;」<br />
	「魔学は、魔法に関する学科のことです。筆記、実技双方含んでいるので、内容は幅広いですけれど」<br />
	　あの教本の分厚さなんて、半端ない。あれで人が撲殺できるのではないかと、子供の頃は本気で思った。―――いや、今も正直、そう思う。<br />
	「&hellip;あれ、じゃあ竜はどちらに分類されるんですか」<br />
	　アーシャが眉を寄せる。そういう質問をするということは、竜が知性のある生き物であることも知っているのだろう。おそらくマティアあたりに聴いたのだろうなと見当をつけながら、答える。<br />
	「その人の解釈によりますね。私自身は、竜は魔族であると考えますが」<br />
	「うん？　アーシャさんは、竜に興味があるのかな？」<br />
	　クレイスラティの問い掛けに、こくりと頷く。<br />
	「一生出会えない可能性の方が高いですけど、もし出会えるのなら」<br />
	　ぜひとも。アーシャは続けた。その言葉に、エインレールは内心で苦笑する。なんとも彼女らしい考えだ。彼女ならば、半ば伝説と化した存在である存在でも、いつか本当に会えるのではないかという気もする。<br />
	「彼らは人前にはあまり出てこないからね。&hellip;&hellip;&hellip;ああでも、会う可能性が高くなる方法は知っているよ」<br />
	「え！？」<br />
	　パッと目を輝かせたアーシャとは対照的に、エインレールは顔を顰めた。一瞬、こちらを見てニヤリと笑ったのが見えたからだ。<br />
	　教えてくださいと言うアーシャに、それはね、とさんざんもったいつけてから、王は口を開いた。<br />
	「エインレールと結婚することだ」<br />
	「だから、なんでそうなるんですか。根も葉もないことを言わないでください！」<br />
	　瞬間的に、エインレールが怒鳴る。さっきから、隙あらばそういう方向に話を持っていこうとするのは、頼むからやめてくれないかと、かなり本気で思った。<br />
	　アーシャは、そんなエインレールを見て、どうしたらいいのかわからない顔をしている。<br />
	「&hellip;ええと、虚言、ですか？　それとも、本当にエインにはそういった能力が？」<br />
	「酷いなあ。虚言だって。嘘だって。仮にも王様だよ、僕」<br />
	「酷いも何も、本当のことでしょう。アーシャ、嘘ですから信じないでください。大体、どうして多少でも信じかけているんですか、貴女は」<br />
	　呆れた眼差しを向ければ、彼女はむっとした様子だ。そのためか、いつもよりも拗ねた声を出す。<br />
	「だって&hellip;エイン、魔法も効かないですし。そんなの聴いたことがなかったから&hellip;もしかしたらそういう特殊能力も備わっているんじゃないかって、つい」<br />
	　&hellip;確かに。不思議な能力をひとつ持っている者に、実はもうひとつ特殊なものを持っているんだ、と言われたら、信じてしまうかもしれない。<br />
	　だとしても、そうそう簡単に、人の――特にこの人の話を鵜呑みにしないでほしかった。というか、もし本当にエインレールにそんな能力があったのだったら、―――あるの、だったら、彼女は、いったいどうするつもりだったのか。<br />
	　いやいや、彼女は純粋に自分にそういった特異な能力があるのか知りたかっただけに違いない。エインレールは頭を軽く振った。<br />
	「と、まあ、落ち着くところに落ち着いたところで、話を進めようか」<br />
	「落ち着くところに落ち着いた&hellip;？　どういう意味ですか」<br />
	「え、もちろん二人の仲、」<br />
	「話を進めましょう。片割れの&ldquo;影&rdquo;が魔族とのことでしたが、&ldquo;収穫&rdquo;はそれだけですか」<br />
	　余計なことを訊ねたアーシャの頭を軽く小突く。こんなところで玩具にされるのはごめんだ。勘弁してくれ。<br />
	　アーシャにもその意図は伝わったのだろう、顔を赤くし、怒りに目を吊り上げながらも、口はきゅっと引き結んでいる。<br />
	　クレイスラティは肩を竦めて、どこかつまらなそうだ。ざまあみろ、と心の中で舌を出しつつ、顔には平然と笑みを浮かべる。<br />
	「&hellip;いいや、&ldquo;収穫&rdquo;は他にも数点ある。残念ながら、大物ではないがね」<br />
	　まず先程の魔族関連。クレイスラティが話を進める。<br />
	「アレは高確率で、&ldquo;誰か&rdquo;と誓約を交わしている。おそらく敵側のリーダー格だろう」<br />
	「高確率、その根拠は？」<br />
	「あーくんの前で真名らしき音をした名を名乗ったそうだからね」<br />
	　絶対とは言い切れないが、と続けた王を前に、なるほどと頷いていると、くい、と服の裾を引かれる。<br />
	「&hellip;エイン」<br />
	　またしてもアーシャは不思議そうだ。<br />
	「真名は、魔族にとってとても大切なものなんです。真名は、魔族を縛る力がある。その名で命じられれば、彼らは逆らえません」<br />
	「でも、名乗った&hellip;かもしれないんですよね」<br />
	　そんなに大事なもの、早々簡単には口にしまい。言った後で、アーシャはうんと悩んで、エインレールが答えを言う前に口を開いた。<br />
	「あ。先程言っていた&ldquo;誓約&rdquo;を交わせば、たとえ真名を知られても、縛られることはない―――ということでしょうか」<br />
	「正解です」<br />
	　にこり、とエインレールは笑った。癖で彼女の頭をぽんと叩いたが、特に誰も、何も言わない。<br />
	「誓約を交わした魔族は、特別な力を手にします。それまでの二倍とまでは言いませんが、誓約前よりもずっと強大な力を」<br />
	　それだけなら、魔族にとても優位な内容に聞こえるだろう。<br />
	「ただし、誓約を交わした主の命には、絶対に背けない。また、主に牙を剥くことも、叶わない。主が死ねば、自分も共に死ぬことになる」<br />
	「&hellip;&hellip;&hellip;なんだか、主が絶対、という内容ですね」<br />
	　自由を奪われるような内容だ。それでも誓約者が大事だと思えば、なんのその、と言ってのける者もいるのだろうが。<br />
	「元々魔族は人を好きません。誰かに命令されることも厭う。だから、たとえ力を手に入れられると言っても、誓約までする魔族は稀です」<br />
	　―――その特性があるのでは、確かに稀にもなろう。<br />
	　納得した様子のアーシャは、ふんふんと頷きながら、小声で「あたしもその条件はちょっと嫌だなあ」と呟いた。確かに彼女の気質はどこか魔族寄りだ。エインレールは苦笑した。<br />
	「ただ、それにしても被害が少ない。もし本当に誓約を交わした魔族なら、明らかに手を抜いていたとしか思えないんだよね」<br />
	　それは、そうだ。誓約を交わした魔族が全力を出し切ったなら、あの程度で済むわけがない。こちらだって、そうそう簡単にやられる面子ではないし、負けてやる気もない。しかし甚大な被害が出るのは道理だ。<br />
	　だから、それゆえに不可解だった。<br />
	「彼女を唆した手口にしたって、やけに生温い。&hellip;前回同様、からかわれている気がするね」<br />
	　すう、とその顔を一瞬にして無に変えた王が、視線を窓の外にやり、ぽつりとつぶやく。<br />
	「――――――――不愉快だ」<br />
	　ゾクリ、と背筋を冷たいものが通った。<br />
	　こういう時、実の父が敵でなくてよかったと、本気で思うのだ。王は不愉快であるからと、すぐに腰を上げるわけではない。だけれど、だからこそ、殺す気で動いた時に、一切の容赦がない。<br />
	「&hellip;ま、今わかっていることで、君たちに伝えられるのはこのくらいかな。アーシャ、君の話も聴けたからね。ありがとう」<br />
	　何も映さない表情を穏やかな笑みに塗り替え、クレイスラティは、エインレールとアーシャを交互に見た。<br />
	「どうぞ、末永くお幸せ、」<br />
	「話が以上でしたら、退室させていただきます。早々に」<br />
	　キッパリと告げて、アーシャを連れ立ち部屋を出る。あの人の玩具にされるのは、本当に勘弁願いたい。<br />
	　それにしても。<br />
	　&ldquo;わかっていることで、伝えられること&rdquo;という言葉が、やけに引っ掛かる。&ldquo;わかっているが、伝えられないこと&rdquo;もあるのだろう。それはこれまでも同じだ。意識して気にしないようにしてきた。―――だが、今回ばかりは。<br />
	　ついとアーシャを見れば、彼女も同様に自分を見ていた。彼が自分たちの知らない情報を得て黙っていることは、おそらく彼女も感付いている。感付くような言い回しを、あえて使ったのだろう。<br />
	　おそらく、それが自分絡みであるということも、彼女はきっと、心の奥底で気付いているのだ。<br />
	　だからエインレールを見ている。彼女は、自分よりもエインレールがより真実に近いことを知っている。<br />
	　エインレールは、ふっと視線を逸らした。今は、言えない。少なくとも、自分の中で区切りがついたら。確証があることではないのだ、というのが、ただの言い訳であることは、既にわかっている。<br />
	（気付かないフリをしている俺の方が、性質が悪いか&hellip;）<br />
	　ふ、と自嘲した。<br />
	　しかし、それにしても。<br />
	　先程の自分と父のやり取りを思い起こす。追及を逃れるための手にああいった流れを使用された時点で、既に十分愉しい玩具となっているのかもしれない。<br />
	「&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;」<br />
	　途端に苦虫を噛み潰したような顔をしたエインレールに、アーシャが「ど、どうしたんですか？」と慌てた様子で訊ねた。<br />
	「いや、&hellip;気にするな」<br />
	「気にするなって、気にしないのが無理な顔で言わないでください」<br />
	「お前&hellip;それすごく失礼だろ。そんなに酷いか、顔」<br />
	「はい」<br />
	「即答か！」<br />
	　少しばかり腹が立ったので、ぱすんと頭を叩く。いたい、とアーシャが非難の声を上げた。それから、ぼそりと言う。<br />
	「&hellip;さっきは優しかったのに」<br />
	　その言葉を頭の中で反芻し、かろうじてそれが、先程王の前でしたことだと思い出し、頬を盛大に引き攣らせた。<br />
	「っ、&hellip;&hellip;な、おっ、ま&hellip;&hellip;」<br />
	「エイン、顔赤いですよ？　どうしたんですか？」<br />
	「それはっ&hellip;&hellip;&hellip;お前、絶対俺より性質悪い」<br />
	　不思議そうに目を瞬かせたのは、知らないフリなどではない。彼女の本来の気質だ。<br />
	　そう結論付けたエインレールは、眉を寄せて断言した。突然何を言っているんですか、と不満げなアーシャは完全に黙殺する。<br />
	　それでも、一連のやり取りで心がすうっと軽くなったのを感じて、これもあのことは一切関係なく、ただ自分がそう感じているだけなのだと、決めた。</span></font></p>
<p style="text-align: right; line-height: 200%">
	<span style="font-size: small"><span style="font-family: ｍｓ ｐゴシック"><font size="3"><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック"><a href="http://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/Category/3/92/">NEXT</a>　/　<a href="http://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/Category/3/">MENU</a>　/　<a href="http://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/Category/3/90/">BACK</a>　---　<a href="http://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/">LUXUAL</a></span></font></span></span></p>
]]> 
    </content>
    <author>
            <name>岩月クロ</name>
        </author>
  </entry>
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    <id>iwa3ruxual.blog.shinobi.jp://entry/196</id>
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    <published>2011-08-26T22:30:00+09:00</published> 
    <updated>2011-08-26T22:30:00+09:00</updated> 
    <category term="Ｂｌａｃｋ Ｓｋｙ ＆ Ｗｈｉｔｅ Ｍｏｏｎ" label="Ｂｌａｃｋ Ｓｋｙ ＆ Ｗｈｉｔｅ Ｍｏｏｎ" />
    <title>ＢＳ＆ＷＭ　074</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<p style="line-height: 200%">
	<font size="3"><span style="font-family: ｍｓ ｐゴシック">　翌朝起き上がったエインレールがアーシャの部屋の扉を開けた時、一番に目に飛び込んできたのは、青い鳥の後ろ姿だった。<br />
	「おはようございます、エイン」<br />
	　振り返ったアーシャが笑う。<br />
	「おはよう。&hellip;渡したイオペガ、役に立ってるか？」<br />
	　はい、と答えたアーシャが、ますます笑みを深めたのを認め、エインレールも笑みを返す。罪悪感を払拭するためだけに送ったそれが、けれど彼女の救いに少しでもなっているのなら、それは純粋に嬉しいことだと思った。<br />
	「キューちゃんと名付けたんです。名前が無いのは、不便ですから」<br />
	「お前それ、絶対鳴き声聴いて付けただろう」<br />
	「あれ、バレました？」<br />
	　えへへ、と笑う彼女に、今後は彼女に何も名付けさすまいと、心に決める。あまりに単純すぎる命名方法は、なんだか少し寂しい。<br />
	　もう少し凝ったものにすればいいのに、と零せば、妙に角張った名前を付けるよりかは簡素な方がスッキリしていていいじゃないですか、と言い返される。少しでも納得してしまった時点で、自分の負けは決まっていた。それでも、次は彼女に任せきりにしないようにしよう。そこまで考え、眉を寄せる。そもそも&ldquo;次&rdquo;なんてあるのか。<br />
	「さて、エイン、陛下のところへ行きましょう」<br />
	　勝って揚々としているアーシャの顔を見て、考えても仕方のないことだな、と自分の考えを笑って一蹴する。<br />
	　それから、前々から気になっていたことを、訊ねた。<br />
	「なんで父上のことを、陛下と呼び始めたんだ？」<br />
	　最初は、&ldquo;王様&rdquo;だったはずだ。<br />
	　訊ねられたアーシャは、んー、と視線を上の方向に向けながら、「区切りでしょうか」と言った。<br />
	「区切り？」<br />
	「そう、区切りです。あたしの一番は、ツベルの地です。それは今も変わりません。ならそのために誰の下に付くのか。それをハッキリさせるための、証&hellip;ってところでしょうか」<br />
	　もっと他にも表現方法ってあると思うんですけどあたしにはコレ以外思いつかなくって、と照れたように笑うアーシャを見て、ああ彼女は本当に自分の父に付き従おうとしているのだと気付く。彼女の言葉、纏う空気が、それを主張していた。<br />
	「だから、ひとまずエインを裏切ることはないですよ」<br />
	「&hellip;その上で、裏切らせないための努力は、最大限にするつもりだ」<br />
	　俺はお前を失えないんだ、と心の中で続けた。それは確かに恋慕の情で、しかし&ldquo;真実&rdquo;を知った後にはそれ以外の意味が含まれるようになっており、それが、やけに不快だった。<br />
	　というより。<br />
	　ここまであけっぴろにしておいて、何故彼女はこちらの気持ちに気付かないのだろう。<br />
	　横目で、「ぜひそうしてください」と上機嫌で歩くアーシャを見る。<br />
	　あるいは、気付かないフリをしているのか。もういっそ、その方がしっくりくるような気もした。<br />
	　―――だが、そうでないとしたら。<br />
	　それはきっと、アレの所為だ。エインレールは不意に、あの虚ろな目をしたアーシャを思い出す。<br />
	　心の奥底で全てを理解していながら、けれど知らないままでいなければいけない、矛盾を抱えた彼女を。<br />
	　それは、いったい彼女のどこまでを呑みこんだのだろう。どこまでを呑みこみ、封印したのだろう。<br />
	　そこに確かに自分の希望が滲んでいることを自覚する。全く気付いていないよりかは、封印した先に望むものがある方が、希望に見えた。それがいつか必ず解かれることを、知っているが故に。<br />
	　たとえその想いが、ひどく愚かしい人形劇の一端だったとしても。<br />
	「―――エイン」<br />
	　呼び掛けに、混濁した意識を引き上げ、顔を向ける。<br />
	「着きましたよ」<br />
	　明るく笑う彼女に、救われる。その彼女に対して、だから、自然と顔が綻んでしまったのは、仕方がないことで。<br />
	「え、エイン？」<br />
	　途端に居心地が悪そうになったアーシャの様子に我に返り、なるべく明るい声で「それじゃ入るか」と告げた。頷く動作を見届けたところで、扉越しに声を上げる。<br />
	「陛下。エインレールです。ただ今参りました」<br />
	「アーシャも一緒かい？」<br />
	「はい」<br />
	　アーシャに対する敬称が完全に取れていることをそこで知り、それから改めて、彼の中でのアーシャの位置づけも決まったのだと、理解する。<br />
	　どうぞ入って、と軽く言われるが、自分自身は硬さを留め、仰々しく扉の前で一礼すると、扉が自然と開いた。<br />
	　また無駄なところで魔法を使って、という嘆息は、心の中に押し込める。<br />
	　再度礼をし、それから足を踏み出した。もう足を踏み入れることが何度目かになるためだろうか、それとも心持ちの問題か、アーシャも最初の頃とは打って変わって、落ち着いた様子で入室する。<br />
	「やあ、エイン君。身体はもう大丈夫なのかな？」<br />
	「おかげさまで、このように動けるまでに回復いたしました」<br />
	　にこり、と余所行きの笑顔を浮かべる。何が可笑しいのかくすくす笑う父王は放っておき、「襲撃の件でお呼びとのことでしたが」と早速本題に入る。<br />
	　せっかちだなあ、と笑ったクレイスラティは、けれど自分も次の瞬間には、王へと変わる。その様を見、せっかちはどっちだよ、と内心で毒づいた。<br />
	「先の襲撃の件だが、まずはアーシャ、君にことの顛末を説明してもらおう」<br />
	「はい」<br />
	　アーシャは頷いた。それから、彼女がクリスティーに扮した&ldquo;影&rdquo;に会った時のことから、実際に襲撃が起こるまでの間のことを語る。聴きながら、彼女の様子が明らかに変わった時のことを思い出した。あの時に無理やりにでも、話を聴き出しておけばよかったと思う。王の臣下としてではなく、&hellip;彼女を想う者として。<br />
	　彼女はこうしてまだ自分の隣にいるが、それはあくまで結果論でしかない。次もそうとは限らない。<br />
	　自分は、彼女を失えない。<br />
	　疑うと決めた時から、更に大きくなっていく想いを見定め、嗤う。決して純粋なだけではない、自分の気持ちを。<br />
	「なるほど。大体はこちらの把握と同じだな。&hellip;ところで、君はいつ&ldquo;こちら&rdquo;に気付いたのかな」<br />
	　こちら―――それが示すのが、王の&ldquo;影&rdquo;であることは、言うまでもなかった。<br />
	　王とアーシャの視線が絡み、刹那、静かな空間が生まれる。それを壊したのは、後者だ。<br />
	「初めの接触の時には、気付きませんでした。お恥ずかしい話、動転しておりましたから。でも、いろいろ考えるうちに、貴方が何も手を打っていないことの方がおかしいと思いました。それで二度目、意識して周囲の気配を探っているうちに、影を見つけましたので。&hellip;それからは注意していましたけど、普段からちょくちょく、こちらをうかがっていましたよね。―――ああ、陛下の側についた理由は、あの騒ぎの中、あちらにお伝えしたとおりです」<br />
	　王家についた方が、自分の護るツベルの民に有利に働く。言葉にすると手前勝手な言い分は、やけに彼女らしかった。脇腹の痛みに耐えながら、それを聴いた時に、可笑しく感じたことを憶えている。<br />
	　王は片眉を上げて、驚きと称賛を示した。<br />
	「本当、なかなか敏感だな、君は。影の気配に気付くなんて。&hellip;向こうの影でさえ、気付かなかったのに」<br />
	「アレは、影ではありませんでしたから」<br />
	　アーシャはきっぱり、否定した。<br />
	「今回はその位置にいたようですが。でもあれは普段からそうなりきっている者ではありません。だから気付かなかった。気付けなかった」<br />
	　その答えに、クレイスラティは満足したようだった。<br />
	「そのあたりは、もしかすると先方も了解済みだったかもしれないな」<br />
	「踊らされていた、と？」<br />
	　自分たちだけではなく、あの&ldquo;影&rdquo;も。それにしては、&ldquo;影&rdquo;を見捨てなかったあの行動が、不自然だ。<br />
	「首謀者のこともね、さっぱりだ」<br />
	　少しでも引っ張り出そうと、こちらも罠を張り巡らせたんだけどなあ、と言い、やれやれと肩を竦めるクレイスラティは、つとアーシャを見やり、<br />
	「せっかく一芝居打ったのにね」<br />
	　にこやかに笑った。<br />
	「一芝居&hellip;といいますと、襲撃当日のアレのことですが」<br />
	　具体的にどこからどこまでが&ldquo;芝居&rdquo;であったのか、今回はどちらかといえば蚊帳の外に追いやられていたエインレールには、わからなかったのだが。<br />
	　大体が、彼らにそんな打ち合わせをする時間があったようには思えないが。<br />
	「役者もびっくりな、息の合った名演技だっただろう？」<br />
	「そんなことはなかったです。本っ当に、ないです」<br />
	　アーシャが嫌そうな顔で否定した。そんな彼女の目の前で話を蒸し返すのも少々申し訳ない気がしたが、父にだけ訊ねても何かしらの脚色が入りそうな気がしたので、彼女を巻き込んで事情を聴くことにした。<br />
	「あれはいったい、どういう仕掛けだったのですか。私には、アーシャが父上を討ったようにしか見えませんでしたが」<br />
	「まだまだだねえ、エイン君」<br />
	　ふふんと笑う父に、若干イラッとしたが、なんとか押し殺し、「何がでしょう」と訊きかえす。<br />
	「まずその時点で疑問に思わなくちゃ。何故あの場で、彼女が魔法を使えたと思う？」<br />
	「それは&hellip;」<br />
	　答えようとして、詰まる。何故、あの場で、彼女が魔法を使えたか。<br />
	　―――王宮は、たとえどれだけ警備に信頼を置いていたとしても、最悪の事態を想定しなくてはならない。たとえば、その警備をかいくぐり、侵入者が式典に乱入したとしたら。魔法は、乱入の手段のひとつとなり得るものだ。だからこそ、まず&ldquo;使わせない&rdquo;対策が取られるのだ。<br />
	　王の認めた者にしか、魔法を使わせぬ、その対策が。<br />
	　つまり彼女があの場で魔法の使用が許可されているということは、―――&ldquo;そういうこと&rdquo;だ。<br />
	　そこで、ふと疑問が頭をもたげた。<br />
	「しかし、彼女に魔法使用の許可を与える暇は、無かったはずですが」<br />
	「ああ、無かった。だから致し方なく、あの時あの場は、魔法の使用を一時的に誰にでも許可していた」<br />
	「なっ&hellip;」<br />
	　エインレールは目を見開いた。なんて危険なことを、しかも独断でやってくれるんだこの人は！<br />
	「&hellip;でもねエイン君、僕の前で魔法を使ったところで、特に勝ち目無いと思うんだよね。現実的に考えて。ねえ？」<br />
	　完全に&ldquo;素&rdquo;に戻っている自らの父に、「それはあんたの都合だろう！」と思わず叫ぶ。<br />
	　あはは、と誤魔化すように笑ったクレイスラティは、「それはさておき」と自分が振った話題を早々に畳んだ。<br />
	「後はまあ、魔法が使える者同士の、目くらまし、かな」<br />
	　どういうことだ、とエインレールはアーシャに視線を投げかける。<br />
	　その視線に気付いた彼女が、ええとですね、と話を引き継いだ。<br />
	「あの場では一度、敵に&ldquo;自分の作戦が成功した&rdquo;と思わせたかったんです。というよりかは、&ldquo;王が死んだ&rdquo;ことにしたかった、と言うべきでしょうか」<br />
	「死んだ人間の動向なんて、誰も気にしないだろう。みんなの注意が彼女に向いている間に、私が少しばかり彼らを捕まえる小細工をさせてもらってね。&hellip;結果的には、逃げられてしまったんだが」<br />
	　なるほど。言いたいことはわかった。しかし、いったいそれをいつ打ち合わせたというのか。その疑問が顔に現れていたのか、クレイスラティは低く笑った。<br />
	「駄目だな、エインレール。私は前にしっかり、答えを言っているよ。私自身は、一度も彼女に指示をしたことはない、と」<br />
	　いつのことだ、と眉を寄せる。しかし、自分が聴いているということは、機会はあの襲撃の時のみだ。痛みで朦朧とした中、なるべく多くを憶えていようとしたが、それでも忘れていることもある。<br />
	　ただ、彼はそれ以上口を開こうとしないところを見ても、その件はその一言で事足りるのだろう。すぐに思考を切り替える。<br />
	　指示なしで動く。それが真実だとしたら、かなりの信頼関係が築かれているはず&hellip;なのだが、この両者の間に、果たしてそんなものが存在するのか。いささか疑問である。いや、いささか、どころではない。<br />
	　だが指示なしで両者が自分の思うとおりに動けたということに関しては、妙に納得した部分もあるところば不思議だ。<br />
	　―――この二人は。<br />
	　父と、自身の想い人をそっと見比べ、思う。<br />
	　この二人は、きっと根本が、似ているのだ。同じでなかろうが、しかし大きな柱は、似ている。<br />
	　&hellip;その事実は、何か少しばかり、個人的な感情から、認めたくないものではあったが。<br />
	　ともあれ。<br />
	　一切の指示が無い状態で動けたことは、しかし、現時点では決して信頼関係から生まれたものではない。ただ両者がお互いの護るべきものを護ろうと互いを利用した場合に、偶然利害が一致し、結果的に絶妙な協力関係が生まれた。それが一番しっくりくる。<br />
	　一庶民が王を利用するというのも、妙な話ではあるが。エインレールはアーシャを見やった。彼女に関してそれを言ってしまえば、話が進まないので、この場合も目を瞑るしかないのだろうが。<br />
	「アーシャは、どうして？」<br />
	「あたしは、部屋に入った時に魔法が使えることに気付いたので。そんなことができるのは陛下だけのはずですから、もしあえてそうしているのだとしたら、陛下のストーリーの中では、あたしがなんらかの目的で魔法を使うことになっているのだろうと思って&hellip;」<br />
	　彼女は続けた。<br />
	「そうだとしたら、あたしが魔法を使うことで実現できることは、&rdquo;混乱を起こす&ldquo;か&rdquo;時間稼ぎをしたい&ldquo;のどちらかの可能性が高いだろう、と。じゃあそれはどうしたらできるかって考えたら、一番手っ取り早いのがアレだったんです」<br />
	　王を殺すフリをすることが手っ取り早いとか、言うな。<br />
	　思わず素で突っ込みそうになった自分を、ぐっと堪えた。<br />
	「もし予測が外れていたら、どう納めるつもりだったのですか」<br />
	「多少なら陛下が合わせてくれると信じていましたから」<br />
	「それは嬉しいね。未来の息子のお嫁さんが、お義父さんを心の底から信じてくれるなんて」<br />
	「よっ&hellip;！？　な、な、なりません！　なんでそれを今ここで持ってくるんですかー！」<br />
	「&hellip;&hellip;&hellip;。とりあえず、当日の&ldquo;流れ&rdquo;は掴めました。話を進めましょう」<br />
	　急にテンポがよくなった掛け合いに、サラッと割り込む。―――これ以上話を続けられると、どうも自分の心の傷が増えそうな気がしたため。</span></font></p>
<p style="text-align: right; line-height: 200%">
	<font size="3"><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック"><a href="http://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/Category/3/91/">NEXT</a>　/　<a href="http://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/Category/3/">MENU</a>　/　<a href="http://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/Category/3/89/">BACK</a>　---　<a href="http://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/">LUXUAL</a></span></font></p>
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    </content>
    <author>
            <name>岩月クロ</name>
        </author>
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    <id>iwa3ruxual.blog.shinobi.jp://entry/195</id>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="https://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/%EF%BD%93%EF%BD%85%EF%BD%81%EF%BD%92%EF%BD%83%EF%BD%88%20%EF%BD%86%EF%BD%8F%EF%BD%92%20%EF%BD%99%EF%BD%8F%EF%BD%95/sfy3%20---%E5%BE%8C%E6%9B%B8%E3%81%8D" />
    <published>2011-08-20T06:05:00+09:00</published> 
    <updated>2011-08-20T06:05:00+09:00</updated> 
    <category term="ｓｅａｒｃｈ ｆｏｒ ｙｏｕ" label="ｓｅａｒｃｈ ｆｏｒ ｙｏｕ" />
    <title>sfy3 ---後書き</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<p style="line-height: 200%">
	<br />
	<font size="3"><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック">　間が空きすぎて、作者自身忘れかけていた設定がちらほらありますが&hellip;。<br />
	　ともあれ、第三幕、閉幕です。<br />
	　今回は、ミウラナが少しはグラリとくる話&hellip;だったハズなのですが、予想外に動かなかったです彼女！なんてことだ！<br />
	　いやあ、動かない子だとは思っていましたが、よもやここまでとは&hellip;！（苦笑）<br />
	<br />
	　なんなのでしょうね。鈍感、&hellip;鈍感？　なんだかしっくりこない。前の後書きでも書きましたが、彼女は惚れやすくない&hellip;というか、惚れにくい性質なのでしょう、元から。<br />
	　傍目から見たら「お！」という行動も、実際本人にしてみたら、本当にそういった感情が薄い、という場合も多々。<br />
	　実際のところどうなのかは、本当に彼女しか知りえないことなのかもしれません。<br />
	<br />
	　なんだか、本当に何度も繰り返しますが、<strong>作者の予想に反して、道のりが長いです。</strong><br />
	　果たして終着点はいずこ？<br />
	　彼らが無事に同じ方向へ歩けるかどうかは、セィラン一人の肩にかかっています。ミウラナは特に道を外れても、今はまだ「だからなに？」くらいにしか思っていないので。&hellip;どうしようほんとにセィランが不憫になってきた。いやまだ希望はあるはず。<br />
	<br />
	　次は先送りになってしまった彼の「宿題」をどうにかできるといいなー、と。<br />
	　今度こそ進展しますように、祈りを込めて。<br />
	<br />
	　ここまで読んでいただき、ありがとうございました。<br />
	　また見える機会がありましたら、その時は何卒、よろしくお願い致します。</span></font><br />
	&nbsp;</p>
<p style="text-align: right; line-height: 200%">
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    <author>
            <name>岩月クロ</name>
        </author>
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    <id>iwa3ruxual.blog.shinobi.jp://entry/194</id>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="https://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/%EF%BD%93%EF%BD%85%EF%BD%81%EF%BD%92%EF%BD%83%EF%BD%88%20%EF%BD%86%EF%BD%8F%EF%BD%92%20%EF%BD%99%EF%BD%8F%EF%BD%95/sfy3%20---%E7%AC%AC%E4%BA%94%E8%A9%B1" />
    <published>2011-08-20T06:00:00+09:00</published> 
    <updated>2011-08-20T06:00:00+09:00</updated> 
    <category term="ｓｅａｒｃｈ ｆｏｒ ｙｏｕ" label="ｓｅａｒｃｈ ｆｏｒ ｙｏｕ" />
    <title>sfy3 ---第五話</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<p style="line-height: 200%">
	<font size="3"><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック">「～～～～～～っ！！」<br />
	　身悶えするミウラナに、セィランが苦笑している。<br />
	「お、おいし&hellip;美味しいです」<br />
	　こんなに美味しいものを食べられるなら、面倒なパーティーも悪くないかもしれない。パーティー嫌いのミウラナが、そう思ってしまうほどの絶品揃いだった。<br />
	「それはよかったです」<br />
	　対するセィランは、それほど食べているように見えない。<br />
	　彼自身が言うほど空腹ではないのか、あるいは―――<br />
	「セィラン様」<br />
	　呼び掛けに応えるために、あまりものを口にしている時間が無いからか。<br />
	　人気者だこと。ミウラナは多少の同情とともに、そう思う。ゆっくり舌鼓を打つ時間も無いだなんて。自分では到底耐えられない。<br />
	　しかしそういった時は大概、ミウラナも食べ物を口へ放り込むことを止めて、一応の挨拶を述べる。たとえ恋人関係でなかろうとも、彼のパートナーであることに変わりはないのだ。できることなら、ずっと食事をしていたいけれど。<br />
	　大抵は一言でミウラナの役目は終わるのだが、時々突っ込んで―――明らかにこちらを揶揄するような含みを持たせて、彼女を見てくる者もいる。正直言って不快である。<br />
	「こちらのお嬢さんとは、どういったご関係で」<br />
	　そう直接的に訊いてくる者もいた。<br />
	　セィランは、笑みを崩さずに「ご想像にお任せします」と逃げる。ますます相手の口角が上がるのは気に食わないが、この場においては、彼の対応は致し方がないもののように感ぜられた。<br />
	「いいんですか、誤解されますよ」<br />
	　訊けば、セィランは自然と笑う。<br />
	「別に。私は一向に構いません」<br />
	「&hellip;後々困りますよ」<br />
	　本命が現れた時とか。心の中でそう続ける。一度しっかりできあがってしまった認識は、そう容易く壊れるものではない。<br />
	　ミウラナの心配に、セィランは苦笑した。本気で心配しているというのに。<br />
	「貴女はいいんですか？」<br />
	　逆に訊ねられ、存外にたじろぐ。たじろいだ自分自身にも、動揺した。<br />
	「私も&hellip;別に特には」<br />
	　気になる相手も、いないのだから、少なくとも今困ることは何もない。それならそもそも誘いを受けたりしない。―――ああ、そう言ってしまえば、彼の側だって&ldquo;それならそもそも誘ったりしない&rdquo;となるのだろうが。<br />
	　それなら問題はないでしょう、と静かに笑う彼に、そんなものですか、と息を吐く。<br />
	「いっそ、私のわがままでここに来ている、と言ってくださっても構いませんのに」<br />
	　誘われた時にそういうことにして構わないと、彼に告げたはずである。<br />
	「そんなこと&hellip;貴女が泥を被るだけじゃないですか」<br />
	「ええ。私が泥を被るだけじゃないですか」<br />
	　顔を見合わせる。言葉は同じだというのに、込められた想いが正反対だ。<br />
	「泥なんて、嫌でしょう？」<br />
	「今さらです。なにせ、灰を被った身ですから」<br />
	「&hellip;私が嫌です」<br />
	　さらっと返せば、その方向でミウラナを丸め込むことを諦めた様子のセィランが、別の方向から攻めてくる。<br />
	「それに私は相手の想像に任せると言っただけですから。たとえそうでなくとも、責任は取りません」<br />
	　取れません、ではなく、取りません、と言い切る辺りが、妙に確信犯的なそれを彷彿させ、可笑しい。いつもはしないような屁理屈をごねているところが、なんだかひどく人間らしくて、可愛らしく感じた。―――同年齢の男性に対して言って喜ばれる言葉でないことはわかっていたので、口には出さなかったが。<br />
	「それなら、仕方がありませんね」<br />
	　真顔で、返す。<br />
	「貴方の機嫌を損ねては、本末転倒ですものね」<br />
	「はい。私の顔を立てると思って、お願いします」<br />
	　セィランは嬉しそうに笑った。<br />
	　パーティー自体は、これからもきっと好きだと言うことはできない気がする。<br />
	　けれど、こんな風に彼が笑うのなら、来てよかったかもしれないと、思った。</span></font><br />
	<br />
	<font size="3"><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック">　やはり、友人の役に立つというのは、気分がいいものだ。</span></font><br />
	<br />
	<font size="3"><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック">　少なくともミウラナは、この時の自分の高揚感を、友人に対してのものだと認識していた。<br />
	　それが正しいのか、はたまた認識違いであったのかは、後（のち）の彼女のみが知り得ることである。</span></font></p>
<p style="text-align: right; line-height: 200%">
	<font size="3"><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック">　<a href="http://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/Category/2/26/">afterword</a>　/　<strike>NEXT</strike>　/　<a href="http://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/Category/2/">MENU</a>　/　<a href="http://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/Category/2/24/">BACK</a>　---　<a href="http://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/">LUXUAL</a></span></font></p>
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    </content>
    <author>
            <name>岩月クロ</name>
        </author>
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    <id>iwa3ruxual.blog.shinobi.jp://entry/193</id>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="https://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/%EF%BD%93%EF%BD%85%EF%BD%81%EF%BD%92%EF%BD%83%EF%BD%88%20%EF%BD%86%EF%BD%8F%EF%BD%92%20%EF%BD%99%EF%BD%8F%EF%BD%95/sfy3%20---%E7%AC%AC%E5%9B%9B%E8%A9%B1" />
    <published>2011-08-13T06:00:00+09:00</published> 
    <updated>2011-08-13T06:00:00+09:00</updated> 
    <category term="ｓｅａｒｃｈ ｆｏｒ ｙｏｕ" label="ｓｅａｒｃｈ ｆｏｒ ｙｏｕ" />
    <title>sfy3 ---第四話</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<p style="line-height: 200%">
	<font size="3"><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック">　正直な感想を述べると。<br />
	　拍子抜け、だった。<br />
	　いや、これまで自分が立たされてきたその場所こそが、異常だったのかもしれない。<br />
	　軽く首を捻り、周囲をうかがう。誰も自分に気を払う者などいない。いや、時折視線は感じはするが、それはどちらかといえばこちらを値踏みするようなもので――それもそれであまり心地よいものではないが――今まで向けられた種のものではない。<br />
	「天下の&ldquo;灰かぶり&rdquo;も、国外に出たら通用しないのね」<br />
	　それはそれで悔しい。<br />
	　そう思ってしまうのは、どこか間違っているような気もするが、はて。<br />
	　鬱陶しくないことはいいことだが、同時に何か物足りなくなるのも、やはりどこか間違っている気がするのだが、はてはて。<br />
	　ケープをぎゅ、と握る。何か、心許ない気がして。とはいえ、黒の薄い、肌が透けて見える素材を使ったそのケープを握りしめたところで、落ち着くはずもなかったのであるが。<br />
	　とてもお綺麗ですっ、と褒めそやす召使い三人は、現在この場にいない。立派なドレスには着替えてもらったものの、世話役はあくまで世話役。会場までは入れない。彼女たちがその事実に、いやにホッと安堵した表情をしていたのが気になるが&hellip;。<br />
	　ただ、厳密に言うならば、ミウラナは今、会場の外にいる。後はセィランを待つだけの状態で、あえて三人をこの場に残しておく必要が無かったため、戻ってもらったのだ。</span></font><br />
	<br />
	<font size="3"><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック">「こんばんは、お嬢さん。お一人ですか？」<br />
	　一人かと訊ねながらも、男は周りに視線を走らせている。一瞬身体を強張らせたミウラナであったが、どうも彼の様子が下卑たものではなく、あくまで紳士的に一人で突っ立っている自分を案じてだと思わせるものだったため、肩の力を抜いた。<br />
	　どこかの貴族、だろうか。いや、それとももっと上か？　思わず後ずさりしたくなるほどの、気品と威圧感。逆らう気が、根こそぎ奪われるような存在感。後ろで柔らかく結ばれた長い黒髪は、彼であればスラッとした印象を強めるが、下手に誰かが真似すれば、鬱陶しさを感じさせるだろう。赤&hellip;いや、朱の色の瞳。それはひどく優しげな光を帯びている。その瞳が、ひどく印象的に映った。<br />
	「そうですね、今は。そのうち一人でなくなりますが」<br />
	　ミウラナとしては普通の切り替えしだったのだが、相手にとっては面白いものだったらしい。きょとん、と子供のように――実際彼は、自分と同じくらいか、そうでなければ年下に見える。こちらを&ldquo;お嬢さん&rdquo;と称すからには、それほど歳は離れているわけではないのだと思うが――目を丸くさせていたかと思えば、次にはくすくすと笑い始めた。<br />
	　ひとしきり笑った後に、彼はにこやかに笑みを浮かべた。それまでのひどく可笑しそうな顔とは違う、穏やかに、自然と浮かべられたものだ。それが営業用なのか、それとも彼の素であるのか、ミウラナには判断が付かなかった。<br />
	「すみません、笑ってしまうなど、失礼でしたね」<br />
	「お気になさらず」<br />
	　本心だった。<br />
	　少なくとも、陰でひそひそと暗く笑われるよりかは、目の前で嫌味なく笑ってもらった方が、幾分か気分がいい。<br />
	　にこりと笑えば、相手もにこりと笑みを返す。<br />
	「もしよろしければ、お連れの方がいらっしゃるまで、おしゃべりに付き合ってもらえませんか？　私も、人を待っているんです」<br />
	「あら、そうなのですか」<br />
	　この人はきっと自分とは違って、本当に&ldquo;そういう意味で&rdquo;大切な人と来ているのだろうな、と思う。それこそ、隣に並ぶパートナーが、自分にとって大切な存在であると主張するために。<br />
	　そう思わせるほどに、彼の瞳は、人を待っていると言った瞬間に甘い光を帯びたのだ。<br />
	　それを改めて考えた時、ミウラナはなぜだか居心地が悪くなった。<br />
	　最初から、わかっていたことではある。わかった上で、むしろわかっていたからこそ、ここに来ることを承知したのだ。だというのに、いざ目の前にして怖気づくとは。らしくない。ミウラナは軽く頭を振り、気分を入れ替えた。<br />
	「お連れの方&hellip;といいますと、奥様でしょうか？」<br />
	　見た目はほとんど変わらないが、この歳で正式に妻を娶っている者は、少なくない。目の前の青年も、その&ldquo;少なくない&rdquo;に含まれる人物であったようであった。<br />
	「ええ。久しぶりのパーティーだと、とても楽しみにしておりました。なにやら、古くから付き合いのある友人も参加されるそうで」<br />
	　そこまでを穏やかに言ってから、青年は眉を寄せた。<br />
	「正直に言いますと、お腹に子がいる身で、そう歩き回って欲しくはないのですが&hellip;」<br />
	　ミウラナはそうですねと相槌を打つ。<br />
	　言いながら、この歳で子供か、と思う。いや、そう珍しいことでないのはわかっている。ただ純粋に、それが自分と同年代のものに確かに訪れるものなのだと再認識し、いやに衝撃を受けたのだ。<br />
	　自分と子の組み合わせを考え、自分にはまだ早いな、と思わずにはいられなかった。<br />
	「一人目が女の子だったものですから、二人目は男の子がいいなと思っているのですが&hellip;&hellip;&hellip;無事に生まれてきてくれるのなら、やはりどちらでも」<br />
	　言われた言葉を反芻し、ぱちくりと目を瞬く。ということは、あれか、既に子持ちか。<br />
	　途端になんとも形容しがたい衝撃が襲い、ミウラナは口を噤んだ。<br />
	　さてどう続けたものか。彼女が内心で降参した時、抜群のタイミングで、華やかな声が上がった。<br />
	「クレイス様！」<br />
	　見れば、目の前の青年がその声にしかと反応している。声の方向を見れば、ゆったりとしたドレスの上からでも膨れているとわかるお腹を持った女性が、ゆっくりと、けれどもどことなく急いた様子でこちらに歩いてくるのが見えた。紫系統の瞳は、自身の瞳の色とよく似ているが、しかしよくよく見ると異なるものだ。逆に一目でミウラナの瑠璃色の髪とは一切異なるとわかる、そのくるりくるりとした金茶の髪は、一歩進むたびにふわふわと踊る。<br />
	　格別美人というわけではない。けれど、柔らかな顔立ちに、優しげな目元を見ると、彼女を前にした者は、自然と気が緩んでしまうに違いない。少なくとも、ミウラナは彼女にそのような魅力があると感じ取った。<br />
	　ほっそりとした白い手が、そっとお腹に添えられている。ああこの人は母なのだ、と唐突に思った。<br />
	「フィラ、そんなに急がないで。転んだら大変だよ」<br />
	「大丈夫よ。わたくし一人の命ではないと、わかっておりますもの。でも、お心遣い、感謝いたします。―――こちらの方は？」<br />
	　優しげな瞳が、こちらに向けられ、さらに優しく細まる。<br />
	「ああ、こちらは&hellip;―――失礼、名をお訊ねしておりませんでしたね。とんだ無礼をいたしました」<br />
	「いいえ、お気になさらず。私は、ルーフェイ王国から参りました、ミウラナ・スティと申します」<br />
	　名乗った瞬間、優しげな瞳が、刹那、驚きに染められた気がした。<br />
	　ただそれは、よろしくお願い致します、と軽く一礼した拍子に、見えなくなってしまった。<br />
	「私は、ツォルヴェイン王国のクレイスラティ・ヴェイン・カスターと申します。こちらは妻のフィラティアス・シャイン・ナティアです」<br />
	　名を頭の中で復唱し、げ、と思わず一言。顔に出さなかったのは、不幸中の幸いだった。<br />
	　クレイスラティ・ヴェイン・カスター。―――ツォルヴェイン王国の第59代国王の名だ。賢王だと聴く。<br />
	　驚きながらも、納得していた。なるほど、この存在感は、王にこそふさわしいものだ。<br />
	　下手なことを言う前でよかった、とそんなことを考えながら視線を泳がせれば、自分の待ち人の姿がそこにあった。どうやらまだこちらには気付いていないようである。<br />
	「セィラン様」<br />
	　小さく呼び掛ける。気付かなくてもおかしくないほどの声量だ。けれど彼は気付いた。すぐに目が合い、ぽっかりと口を開けたまま固まる。なんだというのか。<br />
	　何か変なところでもあったか、と自分の格好を改めて見直した。<br />
	　全体的に落ち着いた雰囲気を出すために、深い色を基調としている。ただし地味すぎないようにと、肩と胸元、背中が大きく開いたラメ入りの紺色のドレス。そこに、肩から肘上までを覆う、黒く透けるケープを羽織っている。髪は緩く大きく、右上に集めて結われている。装飾は白い宝玉をふんだんに使い、そこに大きな一輪の―――青い、薔薇。<br />
	　さすが、姉と召使い三人が結託しただけあって、それなりのできであった。化粧も――まだ走り回ってはいないから、たぶん今のところは、無事のはずだ。<br />
	「セィラン様？」<br />
	　再度呼び掛ければ、ぎくしゃくと彼が動き出す。<br />
	「あの&hellip;えっと&hellip;&hellip;」<br />
	「あらあら、見惚れているのね。お綺麗だから、気持ちはわかりますけど」<br />
	　くすくすと笑う隣国の王の奥方に、セィランが素早く反応した。<br />
	「なっ&hellip;なっ！？」<br />
	　反応はしたが、言葉が上手く出てこないらしい。<br />
	　それにしても&hellip;&ldquo;見惚れた&rdquo;という判断は、どうか。確かに&ldquo;それなり&rdquo;に仕立てられはしたが、自分は客観的に見て&ldquo;まあまあ&rdquo;&hellip;格別に美しい顔立ちをしているわけではない。ましてセィランならば、普段より自分に自信がある女たちに言い寄られる身であろう。少しばかり顔のいい女なんて、見慣れているはずだ。<br />
	　小首を傾げたミウラナに、「噂どおりね」とフィラティアスが微笑む。<br />
	「噂&hellip;？　本日は、一応身なりには気を付けたつもりですが」<br />
	　埃も、付いていないはずである。かなり念入りに、召使いの三人が見てくれていたから。<br />
	「そちらの噂ではありませんよ。もちろんそちらも興味深いですが」<br />
	　ならどちらの噂か。訊ねようと口を開いたミウラナから話を掻っ攫っていったのは、セィランだった。平素の彼と比較するとそれは強引とも呼べた。<br />
	「フィラ様！　そろそろ日も沈む頃です。冷たい風も吹いてきますと、お身体に障ります。どうぞ中へ」<br />
	　気遣う内容とは裏腹に、それはどこか焦った色を持っている。それに対し、そうねえ、とフィラティアスがのんきに応え、するりとクレイスラティの腕に自身の細腕を絡ませた。<br />
	「それでは、行きましょうか」<br />
	「そうですね」<br />
	　優しく見つめ合う二人に当てられないように視線を逸らせば、ちょうどセィランと視線がかち合った。<br />
	「私たちも行きましょう。外は寒い。貴女も体調を崩されたら、大変だ」<br />
	「はい。&hellip;同じように、腕を組むべきですか？」<br />
	「え？　いや、その&hellip;」<br />
	「ああ、ごめんなさい。必要ないわよね」<br />
	　彼の困った表情に、すぐに自身の発言を撤回したミウラナは、軽い足取りで入口を潜り抜けようとする。右に左に、視線を泳がせたセィランは、おもむろに既に歩き始めていたミウラナの手を握った。温かいその指が、そっと彼女の指に絡まる。<br />
	　びっくりして肩越しに振り向けば、顔を赤くしたセィランが、けれどもしっかりミウラナの目を見ながら、微笑んだ。<br />
	「――これで」<br />
	　手に、少し強めの力が込められる。ミウラナも笑って、その手を握り返した。<br />
	「それから、その&hellip;」<br />
	「なんでしょう？」<br />
	　またもふよふよと視線を泳がせていたセィランは、すう、と一度ゆっくりと深呼吸をした後で、少し身体を強張らせながら言った。<br />
	「とても似合っています。綺麗&hellip;だと」<br />
	　思います、という最後の締めは、聴こえるか聴こえないかの境界線にあった。それがなにやら可笑しくて、フフッと笑ってしまう。居心地が悪そうな彼の腕を軽く引く。のろのろと足が動きだす。初めはミウラナが引っ張るような形だったが、会場に入る頃には、二人はしっかり横に並んでいた。<br />
	　入口付近に、クレイスラティとフィラティアスの姿を見つける。それをセィランに教えれば、頷いて、そちらに足を向けた。<br />
	「先程は、挨拶もせずに、失礼いたしました。セィラン・リアンドと申します。陛下のお噂はかねがね」<br />
	　生真面目な顔で一礼し、クレイスラティもそれに返す。そうすると、到底ミウラナでは理解できない難しい話が始まった。ミウラナがそっと手を離したことにも気付かぬ様子だ。<br />
	「こういう時にも少しくらい、気に掛けてほしいものですわ」<br />
	　同じように腕をそっと外したフィラティアスがくすくすと笑う。批判的な言葉の割に、表情は明るく、そんな夫の姿を優しく見守る瞳には一切の曇りがない。<br />
	　自分は彼女と同じ立場ではない。自分と彼は、友人以上の、なにものでもない。それ故、その言葉にどう返していいものか、困惑する。<br />
	「でも、生き生きとしているから、許してしまうの」<br />
	　その言葉に、ミウラナはセィランを見た。彼の表情は、いつになく輝いている。<br />
	「そうですね」<br />
	　笑い混じりに返した。あんな顔をされたら、不満なんてどうでもよくなってくる。―――もっとも、元から不満など無いようなものであったが。<br />
	　温かな笑顔を見たことで緊張がいい具合に解（ほぐ）れたようだった。ふと、先程気になっていたことを、問う。<br />
	「フィラティアス様は、セィラン様とは&hellip;」<br />
	　お知り合いなのでしょうか。そう訊こうと思った理由は、焦ったセィランから発せられた&ldquo;フィラ様&rdquo;という名の呼び方だ。愛称なんて、それなりの仲でないと使わない。<br />
	「古くからの友人なの。手の掛かる弟、みたいなものかしら」<br />
	　それにしても先程は相当慌てていたのね。この頃は愛称で呼んでくれないのに。<br />
	　そう続いた言葉によって、フィラティアスがなぜミウラナからそのような質問が出てきたのかはお見通しであることが察せられた。<br />
	　ふわりと髪を揺らすフィラティアスの隣に、セィランを並べてみる。&hellip;確かに、姉弟の関係になりそうな光景だった。<br />
	　フィラティアス・シャイン・ナティア。<br />
	　改めて、その名を頭に浮かべる。<br />
	　―――数年前まで、ルーフェイ王国の王女であった、その人だ。<br />
	　さすがのミウラナでも、彼女の名と顔くらいは知っている。まさかその時は、こうして見（まみ）えたばかりか、話を交わすことになろうとは、夢にも思わなかったが。<br />
	　そこまで考え、セィランの存在の大きさを知る。自国にとっての、彼の存在感を。幼い頃から、王女と&ldquo;友人関係&rdquo;にあった、その事実を。そうすれば、まるで彼と話すこと自体も、夢のようなできごとに思えてくる。あながち外れてはいないのだろうが。<br />
	「ミウラナ様にとって、彼はどういった存在なのかしら」<br />
	「私にとって&hellip;ですか」<br />
	　ミウラナは一度それまで考えていたことを打ち切って、問われたことに答えた。<br />
	「&hellip;雲の上のような存在、ですね。少なくとも出会うまではそうでした」<br />
	「出会う前は？　それなら、今はどうかしら」<br />
	「友人です」<br />
	　もしかすると、一方通行かもしれないけれど。でも、このパーティーの隣に並ぶ相手として、自分を選んでくれた。それほどの存在なのだという自負は、ある。<br />
	「まるで、奇跡のようですわね」<br />
	　え、と間の抜けた声を出す。<br />
	「雲の上の存在が、出会ったことによって、隣に並ぶまでに至ったんですもの」<br />
	　嫌味のない言葉は、ストンと胸に落ちる。<br />
	「でも、それは決して珍しいことではありませんのよ」<br />
	　ふわり、とフィラティアスは笑う。<br />
	「だって、奇跡ではない出会いなんて、きっとありませんもの。クレイス様が王族でなければ、わたくしは他国で生まれた彼を知ることはなかったかもしれません。セィランがルーフェイ国の宰相の子として生まれなければ、わたくしと彼の今の関係はありえなかったでしょう。そのセィランが貴女と出会わなければ、わたくしは貴女と言葉を交わす機会に恵まれませんでしたわ。―――おそらくその全てが奇跡なのだと、わたくしは思っておりますの」<br />
	　幸せそうな笑うフィラティアスの言葉を、ミウラナは不思議な面持ちで受け入れた。<br />
	「でも出会えたことが奇跡なら、そこから先は、自分で決めるものですわ。進むも下がるも、当人次第」<br />
	　フィラティアスが、静かな水面を思わす瞳で、ミウラナを見つめる。<br />
	「セィランの隣に今、ミウラナ様が立っていらっしゃるのは、お二人が決めたことですのね」<br />
	　決めた。&hellip;確かに決めた。頷いたのは自分。けれど誘われなければ、そもそも頷くことになどならなかった。だから、決めたのはセィランとミウラナ、二人だ。<br />
	　けれどそこには、その事実以上のものが込められているような気がして、ミウラナは苦笑した。この場に連れ添う意味を知らぬわけでは決してなかったが、こうして面と向かってその関係が当然であるように話を進められると、どう返すべきか、困ってしまう自分がいることも事実だ。<br />
	「わたくしは、それが嬉しいのです。あの子は――セィランは昔から、欲しいものを見ないフリをしてしまう癖があったから」<br />
	「欲しいもの&hellip;。―――あの、フィラティアス様、誤解しておられるようですが、私と彼は、あくまで友人関係です。今回のパーティーも&hellip;そう、私がどんなものか知りたくて、無理を言ってついてきただけなんです」<br />
	「あら、そうなのですか」<br />
	　フィラティアスは、微笑むばかりだ。今しがた彼女と初対面したばかりのミウラナには、それが誤解を解いたゆえの表情なのか、それともただその場限りの同意を示しただけなのか、判断がつかなかった。いや、おそらくたとえ彼女と付き合いが長くなろうとも、それを見破れないような予感がした。<br />
	「あまりミウラナ嬢を苛めてはだめだよ、フィラ」<br />
	「っ、」<br />
	　ミウラナは、王の突然の参入に驚くばかりだったが、フィラティアスは落ち着いた様子で、手を頬にあてた。<br />
	「あら、クレイス様。もうお話は済みましたの？」<br />
	「ああ、実に有意義な時間だった。ミウラナ嬢も、申し訳ないね。パートナーを長いこと独占してしまって」<br />
	「いえ&hellip;こちらこそ、最愛の奥方様を独占させていただきましたもの」<br />
	　ぺろりと小さく舌を出せば、まあ、とフィラティアスが笑った。<br />
	「それでは、セィラン殿、ミウラナ嬢、邪魔者はいいかげん退散させていただきます」<br />
	　クレイスラティの言葉が、終わりの合図だったのだろう。フィラティアスが再びその腕を絡めて、歩き出す。足取りはゆっくりだ。それはおそらく、クレイスラティが妻の身を案じて、あえてそうしているのだろうとわかるほどのものだった。<br />
	「さて、どうしましょうか」<br />
	　セィランの言葉に、そうですね&hellip;、とミウラナは少し考える。そして、そっとお腹に手を当てる。<br />
	「とりあえず、何か食べませんか。私、お腹が空きました」<br />
	　正直に明かせば、セィランはミウラナの顔を凝視した後、ふっと柔らかく笑った。<br />
	「そうですね、私もです。&hellip;少し、向こうのテーブルを回ってみましょう」<br />
	「はい！」<br />
	　思わず顔が綻ぶ。これだけ豪華なパーティーだ。並ぶ品もさぞかし美味に違いない。美味しいものは好きだ。</span></font></p>
<p style="text-align: right; line-height: 200%">
	<font size="3"><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック"><a href="http://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/Category/2/25/">NEXT</a>　/　<a href="http://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/Category/2/">MENU</a>　/　<a href="http://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/Category/2/23/">BACK</a>　---　<a href="http://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/">LUXUAL</a></span></font></p>
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    <author>
            <name>岩月クロ</name>
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    <published>2011-08-06T06:00:00+09:00</published> 
    <updated>2011-08-06T06:00:00+09:00</updated> 
    <category term="ｓｅａｒｃｈ ｆｏｒ ｙｏｕ" label="ｓｅａｒｃｈ ｆｏｒ ｙｏｕ" />
    <title>sfy3 ---第三話</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<p style="line-height: 200%">
	<font size="3"><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック">　今回のパーティーの会場であるエルバータには、行き着くことにそれなりの時間を要する。<br />
	　隣国の首都であるから、当然だと言ってしまえばそれまでだが、しかし遠出をあまりしたことがないミウラナにとっては、かなりの長旅となる。朝に出て、順調に行っても夕刻。下手をすれば真っ暗闇の中での到着だ。それでも一日未満で辿り着ける距離であることを喜ぶべきだろうか。<br />
	　真剣に悩み始めたミウラナの前には、セィランが座っている。あるテンポで揺れる馬車に乗っているのは、二人だけだ。ミウラナの世話役である三人は、後方の馬車に乗っている。<br />
	「どうしましたか？」<br />
	　訊ねられ、ミウラナは顔を上げた。困った表情を浮かべたセィランが、真正面にいる。<br />
	「何か困りごとでも？」<br />
	　困った顔をしているのは、むしろ貴方の方でしょう。ミウラナはそう思ったが、口には出さなかった。<br />
	　ミウラナは小首を傾げてから、困りごとというほどのものでもないですけど、と前置きをしてから、先程考えていたことをそのままセィランに告げた。一笑されてもおかしくない内容であったが、彼は存外それに対して悩んでくれた。<br />
	「そうですね&hellip;確かに慣れない長旅は、体調を崩す原因ともなります。それに、パーティー前後は貴金属目当ての盗賊の出没も増えますから、野宿もできれば避けたいですね」<br />
	「盗賊&hellip;」<br />
	　そんな輩が出るのか、とミウラナは目を丸くさせた。これまでずっと国内でばかり生活していた彼女にとって、その単語は現実味を帯びない。国内でも、治安が悪いところは悪いし、なにせ&ldquo;灰かぶり&rdquo;と呼ばれるミウラナだ、そういったところに無鉄砲に飛び込んでいった時期もあった。それで、よろしくない連中に絡まれることも。―――だが、国内のソレと、盗み殺しを生業としている盗賊とでは、同じ&ldquo;悪い&rdquo;でも、厄介の度合いは随分と違ってくるだろう。<br />
	　眉を寄せたミウラナに、セィランが気付いた。<br />
	「すみません、貴女を脅かすつもりではなかったんですが&hellip;。大丈夫です、彼らのテリトリー外の道を選んでいますし、出たとしても、必ず護ります」<br />
	　決して「絶対に出ない」と言わないところが、彼らしかった。というよりも、おそらくそう言えなかった自分を自覚してさえいないのだろう。きっと話が上手い男なら、ここでサラリと全てを否定して、相手に特上の安心感を与えてくれるのだろう。<br />
	　ミウラナはそこまで考え、ふふっと笑みを零した。セィランは、そんなミウラナを見てきょとりとしている。それがまた笑いを誘う。<br />
	　急に笑われて対応に困っている彼に、なんでもないです、と返す。<br />
	「セィラン様が護ってくださるなら、安心ですね」<br />
	　目を細めて彼を見やれば、またもきょとんとした彼は、しかし次の瞬間に、カアッと顔を朱に染め上げる。<br />
	　その反応の意味については、この時のミウラナはちっともわかっていなかった。けれど―――言った言葉は、本当だ。<br />
	　彼のことを、なんでも知っているわけではない。むしろ、まだまだ付き合いの短い友人である。知らないことの方が多い。<br />
	　それでもわかっていることもある。<br />
	　彼は、「やる」と言えばやる人だし、「できる」と言ったことは本当にできる。なら、自分を護ることだって。<br />
	　何よりミウラナには、彼が賊に負ける図なんて、想像できなかった。彼の強さなど知らないし、実際は弱いのかもしれない。けれど、それでも。きっと彼が「できる」と口にしていなくとも、自分は&hellip;。<br />
	　いつもどおり、まるで屋敷でお茶を飲みながら話す時のように、無駄話に花を咲かせた。好きでもないパーティーに行く前のミウラナにしては珍しく、気分は高揚していた。<br />
	<br />
	　高揚していたといっても、それはもちろん、パーティー自体が楽しみであるわけでは全く無く。<br />
	<br />
	　目的地が近付いてきた、あとどのくらいだ、という情報が入る度に、次第に硬い表情になっていくミウラナに、セィランはおろおろするばかりだ。<br />
	「あの、今からでも、キャンセルしましょうか&hellip;？」<br />
	「あーら、それがどれだけ非常識であるかは、さすがの私でもわかりますよ」<br />
	　硬い表情を瞬時に隠し、ツンと澄ました表情で切り返す。ここまで来て引っ込むなんて真似、できるわけない。<br />
	「非常識でもなんでも、それで貴女の気分が上がるなら」<br />
	「&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;」<br />
	　その意味を、じっくり咀嚼し、―――イラッとした。<br />
	「&hellip;馬鹿にしてます？」<br />
	　にこりと笑って言えば、セィランはぎょっと目を見開く。彼にしたら、こちらに気を使ったのだろうが、―――そんな&ldquo;甘やかし&rdquo;に、嬉しいと感じるものか。感じて堪るか。<br />
	「ねえセィラン様、私確かにパーティーは嫌いです。今から行くパーティーも例外ではありません。嫌です。行きたくありません。できれば今からでも中止になってくれたらどんなに嬉しいことかと考えています。ええ、心の底から」<br />
	　最後の一言に、いやに力がこもってしまうのは、仕方がないことである。そこまでを捲くし立ててから、ふう、と一息。興奮してきた自分を宥めて、続ける。<br />
	「―――でも、私は貴方の誘いを受けたんです。私の意思で。&hellip;その私が、パーティーをいざ目の前にして、尻尾を巻いて逃げるなんて、逃げて友人に泥を被せるなんて、そんな真似すると思います？　できると思います？　もし、それらをわかった上で、先程の言葉を口にしていたのなら」<br />
	「したのなら&hellip;？」<br />
	「ぶん殴ります。ぐーで」<br />
	　にっこりと笑うミウラナは、そのまま震える握り拳を顔のあたりまで持ち上げた。真正面の彼の顔が、若干引き攣る。<br />
	「いいですか、セィラン様。非常時に護ってくださるのは、ありがたいです。私ではきっと盗賊なんか出てこられたら、自分の身を護れるかどうかも怪しいですから。でも今逃がそうとするのは、ただの侮辱です。これ以上は、言わなくてもわかってくださいますよね？」<br />
	　むしろわからないと言ったら、殴る。<br />
	　そんな思いを抱えながらセィランを笑顔で見ていた。自分の目が今笑えていないことは、わかっているが、しかし。<br />
	　―――悔しかったのだ。<br />
	　本人にそんなつもりがなかったのだとしても。自分が、友人の事情を全く考慮せずに動ける人間だと、そう言われたのと、それは同義だから。誰より、それをセィランに言われたことが、悔しかった。<br />
	　欠点を認めることと、弱さを後押しするのでは、全然違う。自分の身を護れないことは、欠点。この場から逃げることは、ただの弱さ。自分はその弱さに縋るつもりは、毛頭ない。<br />
	　セィランの花紺青の瞳を、強く見つめる。伝われ、そう思う。伝わって、お願い。<br />
	　答えを知る前に、馬車ががくんと揺れ、止まった。どうやら、到着、らしい。タイミングがいいのか悪いのか、悩むところである。<br />
	　眉を寄せたミウラナの脇を、人工的な風が通った。セィランが素早く馬車から降りていく。襲ったのは少しの不安感。後悔は一切していないが、敢えて微妙な空気を味わいたいと思うほど酔狂な性格はしていない。どうしたものか、と思いながら、馬車から降りようと一歩踏み出せば、スッと手が差し出される。<br />
	「どうぞ」<br />
	　何事も無かったかのように穏やかな笑みを浮かべる彼に、どうするべきか悩んだのは一瞬。<br />
	「&hellip;ありがとうございます」<br />
	　笑顔で手を重ねる。<br />
	「貴女の」<br />
	　完全に馬車から降りたミウラナの手は、そこで離されてもおかしくなかったというのに、それは訪れず。代わりに声が掛かる。<br />
	「貴女の隣に在れる幸福に、感謝を」<br />
	　彼にしては、気障ったらしい言葉だった。それでもそれが似合ってしまうところが、少し憎い。<br />
	「明日のパーティー、楽しみにしています」<br />
	　それが答えだと思った。<br />
	　あえて謝罪をしなかった彼は、ミウラナの性格を、少し掴んでいるのかもしれない。それを考えて、ますます憎くなる。自分は、彼を掴み損ねて、不安感まで抱いたというのに。<br />
	「私は、パーティーが緊急の事態によって急遽中止となることを祈っております」<br />
	　可愛くない返事をすまし顔でしてから、でも、と続ける。<br />
	「もし明日パーティーが中止でないなら、その時は、よろしくお願いします」<br />
	　見つめ合って、手を取り合って。きっとこの光景を第三者が見たら、勘違いを起こす者もいるかもしれない。そんなことを考えながら、ミウラナはにこりと笑った。<br />
	「私、精一杯セィラン様のパートナーを務めます。務めさせていただきますとも、大切な友人のために！」<br />
	　がくり、とセィランが肩を落とした。<br />
	　&hellip;&hellip;&hellip;はて。</span></font></p>
<p style="text-align: right; line-height: 200%">
	<font size="3"><span style="font-family: ＭＳ Ｐゴシック"><a href="http://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/Category/2/24/">NEXT</a>　/　<a href="http://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/Category/2/">MENU</a>　/　<a href="http://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/Category/2/22/">BACK</a>　---　<a href="http://iwa3ruxual.blog.shinobi.jp/">LUXUAL</a></span></font></p>
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            <name>岩月クロ</name>
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